【前回の記事を読む】【原発と災害】天災による補償責任も企業が負うのか? 国家補償が引き受ける範囲とは? 東大教授たちによる議論の記録――
第1部 電力会社のコーポレート・ガバナンス
2.原子力事業者の絶対責任と国の援助
2‐2 原子力事業者の無限責任とその解放
①異常に巨大な天災(3条但書)の免責の困難(17条の「救助」では救済できない)
立法当時のわが国の災害補償専門部会の答申では、「無過失責任のカウンターパートとして、『異常かつ巨大な自然的又は社会的災害』については免責するけれども、責任保険で填補されない危険については、……すべて国が保証すべきだと考え」ていたという(竹内・後掲『ジュリスト』32頁)。
しかし、原子力損害賠償法3条1項但書は、原子力事業者が損害賠償責任を免責される場合について、「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるとき」をあげているが、上記答申とは異なる内容の規定となった。
竹内先生は、次のように指摘している。
すなわち「賠償法では、国は、業者が責任を負う危険による災害については、業者との契約による補償義務を負い(10条)、五十億以上の損害については、賠償義務履行のための「援助」を行うけれども(16条)、業者が免責される場合については、被害の拡大防止の措置と「被災者の救助」を行うことしか定めていない(17条)」と。
それゆえ、ここに免責される「天災地変又は社会的動乱」とは、現在の技術をもってしては、経済性を全く無視しない限り、防止措置をとりえないような、極めて限られた「異常かつ巨大な」場合を指すけれども、3条1項但書との関係で一層限定的に、つまり原子力損害を受けた者のために補償することが全く不可能のような、広範囲かつ甚大な被害を伴う「自然的、社会的災害」かどうかという要素を含めて判断しなければならないとの解釈を示された(「原子力損害二法の概要」『ジュリスト』236号29頁、32頁〈1961年〉)。
竹内先生の解釈をあてはめると、今回の福島原発事故は、日常的感覚では異常な天災地変に該当するといえようが、原子力損害賠償法の3条但書を適用することはできないといわなければならない。
なぜなら、原子力事業者に免責規定を適用すると、政府の支援は、 17条による「救助」などというきわめて限定的な救済となるからであり、政府は、原子力損害賠償法16条の枠組みで援助をするしかないことになる。
つまり、政府は、原子力損害が生じた場合において、原子力事業者が第3条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ、かつこの法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し、原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行うものとする、というスキームが必要となる。