はしがき
電気事業会社は、かつては電気の安定的な供給義務を負うという公益を目的としながら、会社の利益最大化は認められず、国によって認められた料金での収益によって運営される公益事業会社であると考えられ、電気料金の自由競争が排除される地域独占企業として経営されてきた。
しかしながら、アメリカにおいて電力の自由化という現象が1980年代後半から広がってきた。この議論は、わが国に対しても、エンロンが上陸するなどの動きによって広がりだした。しかし、電力業界を自由化させる場合、コストのかかる原子力発電をどうするのかが大きな課題となっていたので、あまり進展はしなかった。
このような状況下で、東日本大震災が起こり東京電力(以下、「東電」と言う)福島第一原子力発電所において過酷事故が発生した。
当時の総理大臣が日本壊滅だと叫んだといわれるくらいの大事故であった。原子力損害賠償法は、過酷事故について原子力発電事業者に無過失責任(絶対責任)を負わせ、損害賠償が支払い能力を超える場合は国が事業者に対して「援助」すると定めている。
この援助を行うために、国は原子力損害賠償支援機構法を制定し、被害者への賠償が開始された。賠償基準は、文科省の下で原子力損害賠償紛争審査会が中間指針を決定した。
東電福島第一原子力発電所の事故は、天災か人災かということが法的にも議論されてきた。被害者住民等からは国の責任を問う訴訟が数多く提起され、人災であるとの主張に対して、これを認めた高裁判決もいくつか存在している。しかしながら、最高裁判所は、国の監督責任について経済産業大臣の任務懈怠はなかったとして、人災ではないことを明らかにした。
損害賠償責任については、国の責任を認めず、原子力損害賠償法によって東電が無過失責任を負い、東電に対しては国が「援助」するというスキームを確認するものであった。ところで、もしも「異常に巨大な天災地変」なら、原子力損害賠償法は東電の絶対責任を解放することになる。