はしがき
もっとも、東電株主代表訴訟により、東京地裁は、最高裁判決の判断とは異なり、2022年に東電旧役員4名に対して任務懈怠責任を認め、13兆円余の損害賠償を東電に支払うことを命じた。
当時の東電役員らは原子力発電所事故を防止できた蓋然性があるという。事故が生じてからの後知恵で天災を人災だと結論づけており、最高裁判所の判断にも逆らうものである。
そもそも、このような判決がなされるのは、わが国の株主代表訴訟制度が硬直的であり、米国およびドイツにおけるより、弊害が大きい制度になっているからである。東京地裁判決は弊害の典型例を示しており、株主代表訴訟制度の改革が急務である。
福島原発事故後の電力自由化は、原子力発電よりも再生可能エネルギーを重視する方向での政策が進行してきたが、新電力が出現してからの価格競争も成功したとはいえないようである。
さらには、いまだに「規制料金」の制度が継続されており、その電気料金の値上げが2023年6月に決定されたことは記憶に新しい。他方では、ウクライナ問題が生じるなどして、エネルギー基本指針は、原子力発電への依拠を重視している。
原子力発電の再稼働をいうのであれば、原子力発電を推進してきた国は、損害賠償責任の分担を回避してきた「援助」のスキームを直ちに改革し、東日本大震災復興基本法の目的とする復興のための財政において、損害賠償責任を分担し、廃炉だけでなく除染やALPSの海洋放出を行うべきである。復興税収入を防衛費に持っていくのは言語道断である。
このことは、東電の株式が、東京証券取引所においてプライム企業として投資家に取引されることにも関係する。東電の企業活動の財政基盤が、福島原発事故の無限の絶対責任とは切り離す「援助」の仕組みによって確立されているかが投資家にとっての重要情報である。
また、国営企業となった東電が、電力の自由競争に積極的に向かえる経営の独立性を有しているかどうか、株主に対する利益配当はいつまで妨害されるのかという問題が、未解決のままである。