さらにいえば、電力の自由化が進む中で、原子力発電所を抱える大手電力会社は、新電力などと肩を並べて本当に自由競争ができるのであろうか。公正取引委員会が大手電力に対して独占禁止法を厳しく追及するのは、自由競争を標榜する電力政策の推進のためだと思われるが、大手電力が安定供給の義務から必ずしも解放されていないことを知りながら、独占禁止法違反を厳格に追及することに疑問を持たないのであろうか。

原子力発電のコストが競争上どのように位置づけられるのか、公正取引委員会の見解が明らかになることを期待するしかない。

  • 第1部 電力会社のコーポレート・ガバナンス

1.原子力発電と電気料金

福島原発事故の衝撃

東日本大震災からの復興ビジョンを描くため、震災後間もない状況下で、菅直人首相(当時)が発足させた復興構想会議が、2011年4月14日に開催され、特別顧問の梅原猛氏が、震災について「私は、文明災だと思う。原発が人間の生活を豊かにし、便利にする。その文明が今裁かれている」と指摘したという。

しかしながら、同会議の議長は、原発事故について、復興ビジョンの対象から外す(『朝日新聞』2011年4月15日)ということで、政府の原子力発電に対する姿勢と責任体制が先送りされた。

他方、東京電力の株価は、大震災による被害とともに生じた原発事故に伴う天文学的な損害賠償額を負担するリスクの浮上から、大きく急落した。同社は、2010年10月に一株の払込金額が1767円で合計約4686億円の新株発行を行っているが、このような株主は、原発事故により待ったなしの大損害を受けている。

また、当時電力10社の電力債発行残高は、約13・1兆円で、社債市場全体の約2割を占め、東電債は約4・8兆円の残高があった。しかるに、事故後、売買は、ほとんど成立せず、新規発行ができない状態であった。

東電は、毎年5000億円にのぼる社債償還に備えて、事故後に金融機関から2兆円の緊急融資を受けていた。市場では、「政府の東電処理方針が固まるまで本格的な発行は難しい」といわれていた(『朝日新聞』2011年4月17日)。

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