【前回の記事を読む】原子力災害と無限責任の現実――福島原発事故が示した制度の限界
第1部 電力会社のコーポレート・ガバナンス
2.原子力事業者の絶対責任と国の援助
2-3 原子力損害賠償法16条の援助に関する政府の対応
原子力損害賠償法16条は、「政府は、原子力損害が生じた場合において、原子力事業者が第3条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ、かつ、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し、原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする」と規定し、同条第2項は「前項の援助は、国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内において行なうものとする」と規定している。
さて、政府が必要な援助を行うという場合の必要性の判断基準がどのようになるのかが問題となる。
①原子力事業者の破綻という方法が取れない民事法上の理由
政府が援助を行う前提として、まず東電を破綻処理させるべきであるという政治的な主張もあったようであるが、その主張の根本的な難点は、もしも破綻スキームをとると、原子力損害賠償法1条が被害者の保護を図るべきであるとしているのに、そのことが大きく阻害されるおそれである。
なぜなら、電気事業者が破綻すると、被害者の救済よりも、その社債権者の保護が優先するからである。
すなわち、一般電気事業者たる会社の社債権者は、その会社の財産について他の債権者に先だって自己の債権の弁済を受ける権利を有する旨が、電気事業法37条に規定されており、同条2項は、その先取特権の順位は、民法の規定による一般の先取特権に次ぐものとする、と規定しているのである。