第1部 電力会社のコーポレート・ガバナンス
1.原子力発電と電気料金
1-2 電力の自由化
わが国においても、電力会社は、公益事業会社として、その私有財産権に対しては多様な制限がかけられてきた。憲法29条3項は、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」と定めている。
営業の自由に関する制約は、まず電気料金が公的な認可を必要とし、またどんなに人里離れたところでも電気の供給義務を負わされる。営業区域も定められ、また原則として契約締結を拒めない供給義務なども負わされてきた。
このような制約の補償として、電力会社は、認可料金の下に地域的な独占を認められ、独占禁止法の適用除外を受けてきた。電力の自由化がされると、これがどのようになるのかが大きな問題となる。
1、米国における規制緩和
自由化に伴い、州の公益事業委員会は、発電部門の売却を認めるなどの規制緩和をしている。規制緩和するだけでなく、電力会社に対しては、原子力発電計画の中止にともなうストランデッド・コストの回収を認めるという特典を与えている。
これは、電力会社がこれまで規制産業として先行投資をしてきた原子力発電建設のための投下資本が、電力についての自由競争の導入によって回収されなくなることに対して、これを料金によって補償をするものである。
向こう10年間の電力料金にその回収費用を上乗せしてよいという制度である(『電気新聞』「電力自由化にみる変革と評価」電気新聞海外シリーズ第4〈1999年〉)。
これは、電力自由化により、原子力発電は止めにするという電力会社が出てくることに対応した考え方である。
2、わが国における展開
われわれの生活にとって電気が重要であることは言をまたないが、その規制緩和を特集する2001年の新聞記事は、次のように述べていた。
すなわち、「家庭用を含む電気、ガス小売りの全面自由化でこの地域の電気代やガス代は平均25%下がり、サービス競争も進んできた。
……都市ガスによる燃料電池や太陽光パネルなど分散型電源は都市部でも導入が進む。独占が続く送電部門を切り離した電力会社とガス、石油会社の再編も続いている。
電力の卸取引市場ができたことで、発電所ごとのコスト競争も激化してきた。初期投資のかさむ原子力発電所は計画撤回が相次ぐ」(『朝日新聞』2001年12月12日)という状況になっていた。