第1部 電力会社のコーポレート・ガバナンス
1.原子力発電と電気料金
1-3 原子力発電の位置づけ
①原子力発電のコスト負担
電力業界としては、さしあたって、業界が青森県六ヶ所村で2兆円余りをかけて建設中の核燃料サイクル施設について、今春をめどに運転開始後の維持費や放射性廃棄物となる全施設の解体・処分費など追加費用を含めた総事業費を試算し、その上で必要費用の援助を求める方針だということが報道されていた(『朝日新聞』2002年1月11日)。
②福島原発事故の補償問題
東電福島第一原子力発電所のような大事故が起こるとその賠償額は天文学的数値になる可能性があるが、これを電力会社に無過失責任によって支払わせるというのが原子力損害賠償法である。
原子力損害賠償法は、事故について原子力事業者に絶対責任を負わせる一方で、国も原子力事業者に「援助」すべきことを定めている。
原子力事業者は、無限責任を負わされ、国も援助を続けることになる。原子力発電事業の推進を決めた当時の政府においては、原発事故が発生した場合には巨額の賠償費用が生じることを試算していたようである。このことについては後述する。
しかるに、福島原発事故に直面した政府の慌てぶりは、次のように報道されていた。すなわち、原発賠償へ保険機構を設立して、被害者救済の支払いを肩代わりし、東京電力からは優先株を取得してその配当金から回収を図る、という。
しかし、これでは、原子力損害賠償法が定める国の原子力事業者に対する「援助」としては、「原子力事業の健全な発達」という同法の定める目的に照らすと不十分であるし、不十分であれば東電が電気料金の大幅な値上げにたよらざるをえなくなる。
さらにいえば、福島原発事故について、原子力安全・保安院などの政府機関による監督責任もあるはずであり、政府自体の責任も避けられないはずである。
そうであるのに、政府は、これを事故直後に人災だと主張して、自らの責任を棚上げするのみならず、東電の責任を厳しく追及する姿勢をとった。