1-4 規制緩和の進展と株主の利益――ストランデッド・コスト
1970年代にアメリカで電力料金が急上昇した。顧客及び人気によって選出される規制当局は、小売における競争が新規参入者に有利となることによって料金が下がる可能性を認識した。
つまり、過去の規制のコストは現在の電力需要と直接関係していないので、顧客はこれを払うことよりもこのような負担をしてこなかった新規参入者が提示する割安な料金に傾くこととなる。
新規参入者はおいしいとこどり(cherry-pick)となる(Leigh Martin, Deregulatory Takings:Stranded Investments and the Regulatory Compact in a Deregulated Electric UtilityIndustry 31 Georgia L. Rev. 1183, 1191〈1997年〉)。
公益事業の最大の顧客が、新規参入者から電力を割安で購入することとなると、そのような顧客のインフラ・ストラクチャーの費用を他の顧客や公益事業の株主の負担に帰させることとなる。
そこで、このような問題の解決方法として、ストランデッド・コストが議論されだしたようである。
stranded costsとは、現在公益事業が料金を通じて回収を認められているが、その回収が業界に生じた競争のゆえに妨げられることとなるものをいう。
独占を認められた地域ですべての顧客に対して役務を提供する義務を遂行するために過去において支出してきたものの回収である。
合衆国の電力業界のstranded costsは、独立の電力供給者の成長、卸売りや小売の促進の結果、1994年には2000億ドルに達したという(William Baumol, Gregory Sidak, Stranded Costs, 18 Harv. J. L & Pub. pol’y. 835, 836〈1995年〉)。
このような公益事業の規制緩和の結果によるstranded costsの回収問題が、テイキングス収入として憲法上の財産権の保護の対象に含まれるかどうかが注目される。
憲法上保護される財産権は「使用される」財産のテイキングスであり、原子力発電計画の中止に伴う費用の回収というストランデッド・コストは、必ずしもこれに含まれるとはいえないからである。
他方では、株主の期待利益の保護を理由とすれば、規制がこれに対して非合理な影響を与える場合は、憲法上の保護対象となる、と解釈する立場がある(前掲Leigh Martin, at 119799)。
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