このような状況の下で、電力業界2位の会社が、全社員約2万6千人の一割強にあたる3千人を2002年度からの3年間で削減し、設備投資も15%カットするなどのリストラ策を発表している。
その理由は、「需要低迷や新規参入者との競争、株価のかってない順位への転落など」が報じられていた(『朝日新聞』2002年1月10日)。
わが国の規制改革の推進に関する第一次答申(要旨)は、エネルギーに関して、「電力の安定的な供給が確保されることを前提に、(電力の小売りで)全面自由化を実施(02年度中に措置)」としていた(『朝日新聞』2001年12月12日)。
もっとも、わが国のエネルギー政策が、一方で原子力推進を謳いつつ、他方で電力自由化を推進するのは、二律背反するものを両立させるに等しい、との指摘もある(佐和隆光「電力自由化と相入れぬ原発」〈『日本経済新聞』2000年3月27日〉)。
そうだとすると、電力業界の自由化の推進と電力の安定供給のためにこれまで政府が基幹電源に位置づけてこれを最大限に活用するとしてきた原子力発電は、これから先はどうなるのかという根本問題が先送りされたままで、電力の自由化がはじまったわけである。
1-3 原子力発電の位置づけ
①原子力発電のコスト負担
原子力研究・開発・利用長期計画案を報じた2000年の新聞記事によると、「原発の総発電能力などの将来目標を明示できなかったのは、原子力の将来が不透明さを増している表れだ。
電力自由化で競争的な環境に置かれた電力会社は一基あたり数千億円に上る原発投資をしにくくなっている。……1956年以来、過去8回の長期計画は、発電コストに一定の利益を上乗せして電気料金を決める総括原価方式と九電力による供給独占を前提にしてきた。
電力会社にとり投資リスクは低く、原発や核燃料リサイクル施設を建設しやすい環境にあったが、自由化で前提が崩れつつある。天然ガス火力など発電コストが安い技術も登場。
中部電力芦浜原発の計画撤回で示されたように、計画通りに建設を進めるのが困難な情勢だ」という(『日本経済新聞』2000年8月12日)。たしかに、電力の安定的供給を重視しなくてよいのであればともかく、そのことに適切に対処しないままで電力小売りの自由化が進行すると、原発等の発電所を保有せず、固定費を抱えない新規参入業者が価格競争上で優位に立つこととなりうる。
それゆえ、原子力発電所の新設や核燃料リサイクル計画の推進にかかる費用をどのようにするかなどの問題を避けて通ることはできない。
【前回の記事を読む】原子力発電所を抱える大手電力会社は果たして新電力と自由競争は可能なのだろうか?