「ふふっ。あんまりはしゃぐと、疲れちゃうわよ」

そう言って、フルールの首を撫でてやっていたときです。

その背中に、一羽の黄色い小鳥が乗りました。羽を休めているのでしょう。その鳥は、首の辺りにぽつりぽつりと白い斑点があり、まるで絵の具を飛ばしたように見えました。

「あっ、フルール、ちょっとじっとしてて。今、小鳥が乗っているの」

動こうとしていたフルールは、ほんの少し戸惑っているようでした。リリーは、とんとんと首の辺りを叩いて、なだめながら言います。

「きっと、フルールなら怒らないと思ったのよ。ほんの少しだけだから、そのままで休ませてあげて」

ふん、とフルールが鼻を鳴らしました。「分かった」と言っているようです。

「ありがとう」

リリー自身は、特別な力を持っているわけではありません。「春を呼ぶ少女」は、魔法が使えるわけではなく、代々受け継がれている馬具と乗馬服にかけられた不思議な魔法によって、春を呼んでいます。

しかし、リリーは幼い頃から、フルールの思っていることをすぐに理解することができました。そしてフルールも、しっかりと言葉で伝えれば、リリーの言うことをきちんと分かってくれるのです。

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