第1章 入居者と暮らしを創る30のエピソード
14日目 できることをやってみよう
お薬の調整も効果が出てきたこともあってか、松本さんに多少の変化が現れました。それは夜間徘徊が減り、自室で睡眠を取られるようになったこと。そして私とお話した内容を「少し」覚えていることができるようになったのです。
確かに、認知症を患うと、自分でできなくなることも増えるでしょう。しかし、できなくなることを嘆くより、「できることを自分らしく表現する」のは素晴らしいことではありませんか。
まだ、松本さんとのお話は始まったばかりです。これからも松本さんの「記憶の引き出し」を少しでも引き出して、松本さんに、会話する喜びを少しでも味わってもらいたいものです。
15日目 脱皮してより良い運営にする
私が施設長をつとめる老人ホームの一日は、朝礼に始まり、入居者の皆さんが夕食を召し上がる際の声掛けと巡回で概ね終わるという感じです。そして心の内は、今日も大きな事故がなく、一日を終えることができたと一息、安堵します。
「無事に何事もなく一日が終わった」
これは、老人ホームや介護事業所の運営を行う多くの事業者の皆さんの正直な感想ではないでしょうか。
ここであえて意地悪な言い方をすると、次のようにも言い換えられるかもしれません。
「やってもやらなくても時間さえ経過すれば結果は変わらない」
この極端な両面を持ち合わせる仕事こそ、老人ホームをはじめとする運営事業の特徴ではないかと思います。
確かに施設内で、事故や問題を発生させないことは非常に大切であることに違いありません。しかし、「問題がなければ何もしない」というスタンスを取り続けるのはいかがなものでしょうか。
運営事業はサービス業の側面も持ち合わせます。老人ホームだけでなくあらゆるサービス業では、接客や挨拶が大切であり、朝礼から始まるあらゆる場面で、サービスの質を磨き上げるように意識しています。
つまり、サービスの質は常に改善する気持ちを持って、何とか現状維持ができるものなのです。もしも現状維持で良しとすると、結果は「質が低下」していくのです。だからこそ、以下のように考えているのです。