第1章 入居者と暮らしを創る30のエピソード

13日目  時の移り変わりを感じる

季節感についても、私たちの住む日本には、春夏秋冬という素晴らしい四季、そしてそれぞれの季節に合った催しがあります。しかし、老人ホームという温度管理された中で暮らすと、季節の感覚が鈍ってしまうものです。

そのため、私の施設では入居者の方々に、この季節感をしっかりと感じていただくため、季節に応じた設(しつら)えを意識しています。

この設えとは施設内における季節に応じた飾りつけのことです。私が老人ホームにおいて、行ってきた設えは以下の通りです。

【設えの参考例】

1月 お正月、門松、お屠蘇

3月 ひな祭り、サクラ、

4月 入学式、ランドセル

5月 五月人形、端午の節句、アヤメ

6月 傘、アジサイ

7月 海、かき氷、風鈴、スイカ

9月 お月見、ススキ

10月 柿、栗、ハローウィン

12月 クリスマス

設えを通じ施設内で季節の移り変わりを感じること。特に植物や花は、人間のように時計を持ち合わせるわけでもない。しかし、必ずその季節に花を咲かせ、実をつけます。植物や花は、人間よりも季節感を把握する能力が優れていると私は思う。だからこそ、入居者が施設内での季節感を掴むのに力を貸してもらうのです。

老人ホームに桜の木を買ってきて、入居者の皆さんと桜の花を一緒に愛でて、香りを楽しんだりする。そして一緒に歌を歌うのです。

皆さんで一緒に、それこそ全身の感覚「見て・聞いて・歌って・嗅いで」を使って、季節を感じてみる。入居者の皆さんの顔が華やぎます。

日本に生まれ、育ってきた。美しき花を愛で、そして季節の移り変わりを感じ、生きてきた。季節を感じるということ、それは今、自分が確かに生きていることなのです。

14日目  できることをやってみよう

私が、事務室で仕事をしているとよく、入居者の松本さん(仮名)が「スーッ」と入ってこられます。そして私の目の前に座られる。この松本さんは、約3カ月前に当施設に入居された方で認知症を患われています。