結婚のカタチ
3
翌朝、電話のベルで目が覚める。
「もしもし、美紀?」
「あら、おはようございます。もうすっかり出かける準備はできているわよ」
「それが、明日から三日間出張になったんだよ」
健一は、ちょっと言いにくそうに話した。
「何ですって。今日は健一さんのところに行けないということなの?」
「すまん」
「せっかく楽しみにしていたのに」美紀は、不満そうにつぶやいた。
「だけど、仕事だから仕方ないじゃないか」と、健一の強い口調が響いた。
「そうね」美紀の目から涙が溢れてきた。
電話からは美紀の啜り泣きが聞こえてきた。健一はいつも冷静に対応する美紀だから予定が少し延びても問題ないと思っていたが、思わぬ反応に当惑していた。
「ねえ、泣くなよ。来週は絶対迎えに行くから」
「はい、分かりました」
美紀は口ではそう言ったものの、悲しくてそのまま電話を切ってしまった。
「もしもし、美紀、もしもし」
あわてて呼びかけたが、ツーツーという音が耳に聞こえるばかりだった。
健一は、離婚前に同じようなことがあったのを思いだした。休みに出かける約束をしていたのが、急に出張で行けなくなったこと、仕事が忙しく子どもと遊ぶ時間もなかったこと、妻と話す時間もほとんどなかったことなどなど。
妻にはいつも「仕事だから仕方ないだろ」と話し、それでいいと思っていたのだが、結局そのことが離婚に繋がってしまった。
嫌いで離婚したのではなかったが、妻からもう一緒には暮らせないと言われたときにはすでに遅かった。今回は同じあやまちを繰り返したくなかった。