美紀と結婚を考えている健一はこんなことで美紀との関係を壊したくなかった。そう思い、あわてて美紀に電話した。しばらく呼び出し音が鳴っていたが、なかなか出てくれない。それでもずっと待ち続けた。ようやく美紀の声が聞こえた。

「もしもし」

 「美紀、さきほどは思わず強く言ってすまなかった」

「大丈夫よ。お忙しいと分かっているのに、私こそ泣いたりしてごめんなさい」

「いや、僕の方が悪かった。おわびの代わりと言ってはなんだけど、今日、ランチを外でしないか。新宿に良いレストランがあるんだが」

「本当?」

美紀は、健一と会えると分かりすっかり機嫌が直った。

「とてもいい雰囲気の店だから、きっと気に入ると思うよ」

健一は答えながらほっとしていた。

「楽しみだわ。遅めのランチということで一時頃はどうかしら」

「了解。では、南口の改札で待ってるからね」

美紀は健一のところには行けなくなったが、ランチを一緒にできることになりうきうきしていた。何を着て行こうかな。新宿だからちょっとおしゃれにしようと考え、クローゼットに向かった。

さわやかなパステルカラーのワンピースに、濃紺のベルトを締めてみた。これで決まりだ。

少し時間があるので、早く出て駅前の百円ショップに寄って、どんなものがあるか見ることにした。美紀はたまにここに来るが、必要なものを買うだけでゆっくり見たことはない。

まして先日の講師の話に出てきたいろんなシールや小物が売っていることすら知らなかった。本当にあるのかしらと思いつつ店内に入る。日曜日の午前中というのに、かなり混んでいた。とりあえずシールを見たかったので、店員に聞いてみることにした。

「すみません、壁の装飾に貼るシールってありますか」

「はい、奥の右から三つ目の棚にあります」

「最近では、よく使われているって聞いたので見にきたのですが」

「そうですね、若いお母さんたちに特に人気がありますね。それから、モノトーンのお部屋にちょっとアクセントにしたいという方もおられますよ」

 「そうですか、ありがとうございます」美紀は店員に礼を言って、教えてもらったところに向かった。ある、ある。いろんなデザインのシールが所狭しと並んでいる。カラフルなマスキングテープも、いろんな太さのものがあった。