十九 か 3654

可之布江(かしふえ)に (たづ)鳴き渡る 志賀の浦に

沖つ白波 立ちし()らしも

遣新羅使の大和の官人等

 河之布江に向かって鶴が鳴きながら飛び渡っていく。志賀の浦に、沖の白波が立ち寄せてくるのであるらしい


【注】1 筑紫(つくし)の館((むろつみ)博多湾沿岸にあった館。外国使節・官人の接待や宿屋に用いた。後の鴻臚館。福岡城二の丸跡の東隣りがその旧跡地と推定される)に着いて遠く故郷を望んで恋しがって作った歌

【注】2 可之布江=福岡県東区香椎の入江か

【注】3 立ちし=「し」は強意の助詞

二十 か 3660

(かむ)さぶる 荒津の崎に 寄せる波

()なくや(いも)に 恋ひわたりなむ

遣新羅使の大和の土師稲足(はじのいなたり)

 荒津の先にひたひたと押し寄せる波のように絶え間なく愛しい妻に恋い続けなければならないのか


【注】1 上3句は序。「間なく」を起こす

【注】2 神さぶる=神代からの「遠(とほ)の朝廷(みかど)」とされた大宰府に至る港だったので「神さぶる」と形容された

【注】3 荒津=福岡市中央区西公園付近にあった港。大宰府の外港で官船が発着した

【注】4 間無く=絶え間がなく

二十一 か 4401

韓衣(からころむ) 裾に取り付おもき 泣く子らを置きてそ来ぬや 母なしにして

国造小県郡(くにのみやつこちひさかたのこほり)の他田舎人大島(おさたのとねりおほしま)

 私の着物の裾に取り付いて泣く子等を置き去りにしてきてしまったよ、母親のいないままで


【注】1 韓衣=「裾」の枕詞「からころむ」は「からころも」の転。大陸風の衣。よそ行きの衣服をこう言ったものか。防人としての官給の服

【注】2 来ぬや=来ぬるや

【注】3 母なしにして=男やもめで故郷に置いていった子を思う表現

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