シニア世代のための「万葉集百人一首」
歌垣などで、あぶれた男が、自分は稗にも劣るとひがんで詠んだ歌。労働生活の体験に即して詠む
十二 う 2476
打つ田には 稗はしあまた ありと言えど
選らえし我そ 夜を一人寝る
柿本朝臣人麻呂歌集
訳 田んぼに、稗は沢山残っているのに、よりによって選び捨てられた私は、夜な夜なただ一人寝ている
【注】1 打つ田=この「打つ」は鍬で耕す意
【注】2 稗=イネ科の一年草。畑に生える畑稗と水田に栽培する田稗とがある。共に食糧となるが、田稗は、稲に混じると害を及ぼし、実が入り交じると後の処理が困難であるばかりでなく、味が落ちるので、見つけ次第抜き取られる
【注】3 選らえし=エルは選ぶ意。ここは選り除くことを言う
十三 え 1292
江林に 伏せる猪やも 求むるに良き 白たへの 袖巻き上げて 猪待つ我が背
作者未詳
訳 入江の林に伏している猪は捕えやすいのであろうか。そんなはずはないのに、袖をたくし上げて猪を待ち構えているよ、このお人は
【注】1 この歌は施頭歌(五七七五七七)。(下三句が頭三句と同形式を反復するからいう)和歌の一体
【注】2 江林=入り江に臨んだ林。入江の林。逢い引きの場所を匂わす
【注】3 伏せる鹿=女の譬え
【注】4 白栲の=「袖」の枕詞。以下、気負い込んで女を漁ろうとしている男へのからかい