またグレゴールは独り言を言うた。

「七時十五分を打つまでには何がなんでもベッドから出とかんならん。だいいち、それまでに誰ぞ店からわけを聞きに来るやろしな、店は七時前に開くんやから」

それからグレゴールは体全体を均等に揺らしてベッドを出る作業に取っかかった。このやり方でベッドから落っこちる分には、落ちる瞬間に頭をしっかり上に向けとくことで頭の負傷を十中八九避けられる。

背中は固いみたいやからじゅうたんに落ちたところでどないもなかろう。一番の気がかりはドーンと派手な音が響くことやった。そればっかりは避けられんやろうし、全部のドアの向こうでみな驚きはせんにしても心配する公算は大きい。

それでもやるしかあれへん。

グレゴールが体を半分くらいベッドからはみ出させたとき──新しいやり方は骨折りいうより遊びやった、体をユッサユッサと揺らしゃよかったから──ふと気がついた。誰ぞ手伝いに来てくれたらどんだけ話が早いか。

力持ちが二人──グレゴールは父親と女中を思い出した──おったら十分や。丸うふくらんだ背中の下に腕を突っこんでベッドからひっぺがして、グレゴールを抱えたまんまでかがんだら、後は注意深く待ってさえもらえりゃ床の上で体をひっくり返せる。

そうなりゃ無数の脚が役に立ってくれるやろう。もっとも、ドアっちゅうドアに鍵をかけてることはともかく、ほんまに手助けなんぞ呼んだもんかいな? こんだけ難儀しとるくせに、グレゴールはこない考えるとどうにもニヤけずにはおられんかった。

さらに強う体を揺すったらバランスを崩すところまできとったし、あと五分で七時十五分やからグレゴールは今すぐにでも腹を決めんならん状況やった──そんとき玄関のベルが鳴った。

「誰ぞ店から来よったな」とグレゴールはつぶやいて体をこわばらせた。

その一方で無数の脚がさらにせわしのう踊った。一瞬、あたりは静まりかえった。

「開けたらへんねんな」と独り言を言いもってグレゴールはある種理屈に合わん望みを抱いた。


1 いらち来て……イライラして

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