「う~ん、これだけではまだすっきりせんなぁ」と、キヨはまだプリプリ怒っている。とそこへ娘トモが洋裁学校から戻り、キヨのいる鮮魚店の入口から入ってきた。

「あっ、トモおかえり。学校よかったかぁ」

「うん、ただいま」とトモが返す。

そこへ、さっきの配達から戻ったハルが楽しそうな顔をして入ってきた。

「トモ、おっかえりぃ」とハルが大きな声でトモに声をかけた。

トモも少しうつむき加減に「おかえり」と小さな声でハルに返す。ハルはニコニコ笑い、トモはちらっとハルを見て恥ずかしそうに微笑む。

ハルが戻ったのを見て、キヨは急いで冷蔵庫から新しい魚を出してくると「ハルさん戻ったばっかりで悪いんだけど、もう一軒配達お願いできるかしら。急ぎでお願いね」とハルに魚を渡した。ハルもトモも床に散らばっている茶碗の破片を見つけると、目を合わせてクスっと笑った。

「キヨさん、急いで行ってきます」とハルは自転車にまたがり配達に出かけていった。その後トモと目が合ったキヨは「ハハッ、また茶碗がひとつ……」と右の唇だけつり上げ半笑いした。

「トモ、今日は宴会で大忙しや。はよ着替えて助けて」とキヨはトモに声をかけると、箒を取って片付け始めた。

トモはスエヨシとキヨの一番上の娘だ。高校を卒業して近くの洋裁学校へ1年通わせてもらっている。背丈は150cmほどの小柄で少しふくよかな体付きの、大人しくて物静かな気立てのいい優しい娘だ。

肩に少しかかるくらいの綺麗な黒髪に色白の肌、切れ長の綺麗な瞳の美人である。小さい頃からキヨの手伝いをしてくれる親孝行な娘で、キヨはトモをとても頼りにしている。今日も早々に家の手伝いをするために、トモは店の奥にある住まいへ着替えに入っていった。

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