どのような条件のもとに条約上のデフェンスが認められるのか、その後の判決では極めて複雑な温度差があり単純に適用できない面があります。
詳細は専門的な話になるので割愛しますが、雇用差別の問題は日常的にリスクがあるものです。日頃から準備しておく必要があるのです。その具体策の一つとして、第7章では、雇用上の仲裁に言及しましたので、ご参考に願います。
それでは次に代表的な雇用差別訴訟を紹介していきましょう。
【事例】テープが暴いた大企業の深刻な差別体質――「テキサコ社人種差別訴訟」
テキサス州で創業した石油会社、テキサコ社は、米国の業界で初めて48州すべてで単一ブランドでのガソリン販売を実現するなど、米国を代表する石油会社の一つでした。
しかし1985年、ゲティ・オイル買収をめぐっての訴訟で敗訴した(この訴訟の経緯は第5章参照)ことで経営的に追い詰められ、2001年にシェブロンコーポレーションに買収されるまで、同社は大きく揺れ動いていました。そんなさなか1994年に起こったのが人種差別訴訟です。
テキサコ社で働いていた6人の黒人の従業員が白人従業員と比較して上級職に昇進できず、公正な報酬を受け取れなかったとして、テキサコ社を訴えたのです。同じ境遇の黒人従業員約1500人を代表するクラスアクションでした。
原告の主張によれば、6人の原告は、テキサコ社のニューヨーク州ハリソンのオフィスの財務部でシニア・ファイナンシャル・アナリストとして働いていました。しかし、経験の浅い白人社員――その中には原告たちが教育した人間もいました――が昇進していくのに、自分たちは昇進できず、セミナーなどの機会も与えられませんでした。
また、原告の一人は、会社で質問をすると「Uppity(高慢)」と言われ、他の黒人社員が「Orangutans(オランウータン)」「Porch Monkeys(ポーチモンキー)」と呼ばれた、とのことでした。
【前回の記事を読む】同じポジションでも、駐在員と現地採用社員の間では給与格差が生じてしまうという問題