第2章 「独立自尊」
自由競争の基盤である機会均等
1956年、連邦最高裁は「バス車内における人種分離」を違憲とする判決を出し、60 年ぶりに「区別すれども差別せず」の判決がひるがえると運動は勢いを増し、1963年8月の「ワシントン大行進」で最高潮を迎えます。ここで行われたマーティン・ルーサー・キング牧師の演説「I Have a Dream」はあまりにも有名です。
翌1964年に制定されたのが、新しい公民権法(Civil Rights Act Of 1964)です。
その第7編(Title VII)で人種をはじめ、肌の色、宗教、性別、出身国による雇用差別が禁じられました。またその後、身体障害者差別禁止法や年齢差別禁止法が制定され、障害の有無や年齢による雇用差別も違法とされました。
米国は、結果としての違いは容認する社会です。仕事の結果を評価されて昇進したり、逆に評価されずに解雇されても、それを受け入れます。どう評価するかも基本的に企業側の裁量に任されており、国や裁判所はこれに介入はしません。
しかしこの評価に、仕事のパフォーマンス以外の要素、人種、肌の色、宗教、性別、出身国、障害の有無、年齢が関係しているならばそれは〝違法な差別〟である、そう法律で定めたのです。言い換えるとこのような要素に基づく差別は自由競争の原理にも反するわけです。
人は、もたらす価値でのみ評価されるべきである。みなが同じスタートラインにつけるよう、〝不合理な〟要素に基づく差別を禁止する。「自由競争」の基盤となるフェアな競争、機会均等(Equal Opportunity)を実現して健全な社会を保つ、それが「雇用差別禁止」の趣旨です。
多くの雇用差別訴訟が起こされているように見える米国ですが、目に見える形で問題にされるようになったのは、〝違法な差別〟が定められた1964年の公民権法制定以降のことです。特に訴訟が増えたのは1980年代になってからと言われています。
禁止されている〝違法な差別〟には「差別的取り扱い(Disparate Treatment)」と「差別的効果(Disparate Impact)」の2種類があります。
「差別的取り扱い」には、明らかな〝違法な差別〟を直接行うことはもちろん、間接的に差別したり、差別を助長することも含まれます。特に意図的な差別は悪質とされ、「懲罰的損害賠償」の対象にもなり得ます。
「差別的効果」とは、差別とは全く関係ない目的で行われた行為であっても、結果的に差別を生じさせてしまう効果のある慣行のことで、これも禁止されています。
「差別的効果」の例としてよく出されるのが消防士の採用試験です。