採用試験で数学のテストを行ない、その結果、特定の人種の人たちの多くが不合格になってしまった場合、恐らく「差別的取り扱い」に該当するでしょう。なぜなら消防士の仕事と数学とは合理的な関係がないからです。

ところが重量挙げのテストはどうでしょうか。火災の現場でケガ人をかついだり、障害物を取り除いたり、消防士には力仕事が求められます。その能力を知るために採用テストで重量挙げを行うことに差別の意図はないかもしれません。

しかし結果的に多くの女性が不採用になり、男性ばかりが採用されることになれば、女性という特別のジャンルの人に不利益が生じ、「性差別」につながります。採用慣行そのものが「差別的効果」を生むものとして問題になるのです。

それでは法律は仕事上の効率を無視してまで、マイノリティーを保護しろというのでしょうか? そうではありません。重いものを持ち上げることが、仕事上欠かせない要件であればこの慣行は正当化されることにもつながります。

――「真正な職業上の資格(Bona Fide Occupational Qualification:以下BFOQ)」や業務上の必要性(Business Necessity)と呼ばれるもので、これが認められるためには、「差別的効果」と「仕事上の必要性」とを比較考量し、後者が勝る、というバランスの上での判断となります。

裁判ともなるとこれを陪審員が決めることになり、彼らの心情にも大きく影響されることになります。簡単に決着のつかない〝微妙〟な問題です。

この「差別的効果」については、過去、米国に進出した日系企業でも問題になるケースが数多く見られました。米国に進出する多くの企業では、日本から駐在員を派遣します。駐在員はほぼ例外なく日本人もしくは日本を出身国とするものです。

出身国とは本人の出生国もしくは祖先の出生国で、例えば同じ白人でも、ドイツ系かポーランド系かといった違いです。移民の国アメリカならではの考えです。日系企業は現地では米国人(米国を出身国とするもので、多くは非日系人)を採用しますが、その際、駐在員と現地採用社員の所得や地位を含む雇用上の取り扱いの違いが歴然となります。

駐在員には多くの場合海外赴任に関わる諸手当(家族手当、住宅手当、赴任手当等)が支払われますがこれらの手当ては現地採用社員には与えられません。明らかな取り扱い上の違いです。

日系企業によってはこれらの手当ての支払いをぼかすため手当分の金額を給与に上乗せし、グロスアップした金額を駐在員に支払っている所もありますが、その場合は同じようなポジションでありながら、駐在員と現地採用社員の間で多額の給与格差が生じてしまいます。

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