第2章 「独立自尊」

ワタナベ社長の念頭にあったのは日本の定年制?

ワタナベ社長は「君はいい仕事をしているが、もっと若い人がいいな」と言ったこと、ブラウンリーさんが降格になった時、若い49歳のコリーナさんが引き継いだこと、降格の理由を「あなたの手に負えない理由です」と答えたこと、また、ブラウンリーさんに、同僚はいつリタイアするのかと聞き、その同僚もブラウンリーさんとともに解雇されたこと、これらが、ワタナベ社長が年齢を理由にブラウンリーさんを解雇したと思われる点でした。

「任意雇用」の原則では、雇用主は、理由があってもなくても、従業員を解雇できます。

理由を告げる必要はないのですが、訴訟となれば、降格や解雇が〝違法な差別〟によるものではなく、他に納得のいく理由があったことを説明する必要が結果的にでてきます。そうでなければ陪審員が納得しません。

米国カンザキは、ブラウンリーさんの降格や解雇の理由を成績不振のためと説明しました。

しかしブラウンリーさんを降格させつつも、昇給するなど矛盾した行動についても説明がつかないままでした。陪審員は、米国カンザキの「成績不振による解雇」では納得しませんでした。

ワタナベ社長が米国の「年齢差別禁止」を知っていたことも、さらに陪審員の不信感を増します。

1990年、ブラウンリーさんはワタナベ社長から最初の降格を告げられた時、社長の「若い人がいいな……」という言葉が気になり人事部長のケビン・モリアーティさんに相談しました。

モリアーティさんはワタナベ社長に米国の「年齢差別禁止」について説明し、それを裁判でも証言しました。優秀な社員を2度降格させ、ついには解雇するなど、ワタナベ社長は何を考えていたのでしょうか。

これはあくまで原告の主張にすぎず、実際の真実が何であったかは定かではありません。しかしながらワタナベ社長の取った行動は矛盾だらけで、説明がつかないのは明らかです。