第2章 「独立自尊」
自由競争の基盤である機会均等
役職や地位についても同じように格差が生じます。米国子会社も日本の親会社を頂点とするグループ会社の一員で、一貫した経営が必要です。本社のビジネスやその顧客、本社の組織や人材などについての知識が必要で、自ずと重要なポストの多くを日本から派遣された駐在員が占めることになります。
現地採用の米国人従業員から見れば、自分と駐在員との〝差〟は、人種や出身国による〝違法な差別〟と映ります。そしてしばしば訴訟に発展します。
これに対し会社側は、「仕事を効率よく進めるためには日本語の能力や親会社に関する知識、親会社の顧客に関する知識が必要で、そのような資格要件を満たす人材を求めた結果、日本からの駐在員が優遇されることになった」と主張、いわゆるBFOQやBusiness Necessityの防御(Defense)をすることになります。
しかし、過去の判例では、資格要件をもとに防御(Defense)が認められたケースはあまりありません。「米国の職場において、現地採用社員の持つ米国のマーケットや商慣行に対する知識や英語の能力よりも、会社の主張する資格要件のほうが勝る」ということを陪審員に説得するのは容易ではないからです。
筆者の目から見れば現地採用社員と駐在員の取り扱いの違いは短期駐在という制度の結果として生ずるもので、出身国や人種差別とは全く関係ないものです。これを違法とすることは、駐在という制度を違法とするもので、ひいては外国からの投資自体を否定することになるわけです。
なんでこんなバカげた議論がまかり通るのだろうと考える読者も多いかと思われます。驚くことに私が話した限りでは、多くの米国人が、「ここはアメリカ、駐在員も現地採用社員も皆永住を求めてアメリカに来た移民」、という心情でした。
最近では、1953年に調印された日米友好通商航海条約を持ち出し、「駐在員がこの条約にもとづいて派遣された特殊な地位のものであり、この条約上の権利行使を派遣元である親会社が行使した結果現地採用社員との間で差別が発生したとしても、違法な差別には当たらない」とした判決(Fortino v. Quasar Co.)が出されました。