第一話 ジュピターと不思議の剣
(その二)
暖かい暖炉の火でみんなの顔が照らされると、安らぎと安堵が広がった。ジュピターがタイガーとフレイジャーを抱えてなめてやっている。じっと薪の火を見ていたトムがゆっくり顔を起こし、ユージンのほうを見て言った。
「ユージン、父上と母上の仕返しを必ずしてやる。あいつらは多くの女、子供たちをさらっていった。みんなをカビラエに奴隷として売り飛ばすつもりなんだ。村の長老がそう言っていた」
ユージンがトムに、「でも僕たちだけじゃ歯が立たない。大人の力が必要だ。それもただの大人じゃダメだ。戦える強い大人が必要だ。とにかく、明日はお前の父上と母上のお墓をみんなで作ろう」
ユージンがそう言うと、トムはうなずき、こみ上げてくる悲しさをこらえて肩を震わせた。溢れる涙が頬をつたって流れ落ちた。ユージンはトムの肩に手をかけて言った。
「村の男達は村を守ろうとして勇敢に戦った。でも急に襲われた彼らはほとんどが十分戦うこともできずに殺されてしまった。あとに残ったのはけが人と老人達だけだ。今僕たちだけで戦っても盗賊団を打ち負かすのは難しい。返り討ちにならないよう準備をするんだ。山賊達の退治は僕とお前で必ずやるんだ。必ず…」と言ってユージンは友を見た。
トムが言った。
「どうやれば強くなれるのか? ユージン。何十人もの残虐極まりない山賊の大男達に捕らわれれば僕達も奴らの奴隷になってしまう」
「…でも村の長老が言っていた」
トムがユージンを見ながら呟いた。
「『おまえの父上が残した剣で奴らを倒すことができる…』と。『それを使えるのはお前しかいない。でも、お前は未熟でまだまだ強くなるための修行が必要だ』と。そして、長老は言っていた。『お前と一緒に西の雪深い山脈を越えた天竺という国へ行くがよい。そこに不思議な力を持つ偉い悟達者がいて、二人でその悟達者の弟子になって修行するのだ。そうすれば、僕とお前とでかならず奴らを倒すことができる』と」
「それはどういうことだ。長老は僕達に出家僧になれと言っているのか?」ユージンが聞いた。
「それはわからない」トムが答えた。
ユージンは目を輝かせてトムを見つめた。母が言っていたように、この剣にはやはり何か秘密が隠されているのかもしれない。きっと不思議な力を持った特別な剣に違いない…。