そう思いながら、はるか西の彼方の世界へ思いを馳せた。そこには天空に聳え一年中雪を戴く山々が雲海を突き抜けて青白く輝いている。その向うにいったいどんな国があり、誰がいるのだろう…。

そういえば、ユージンがまだ幼い頃、シルクロードという道を歩いてきた西方の商人が村に宿泊したことがあった。その商人は彫り深い顔立ちで長い顎鬚、青い大きな瞳を持った大男であった。

数人のお供に牛車を引かせ、これまで見たことのなかったさまざまなものを積んでいた。商人一行が村を発つ朝、世話になった村人への礼として西方から持ってきた珍しい薬味や香辛料を村人に分け与えたことがあった。

商人一行が村に到着した夜、村長は宴を開き彼らをもてなした。その時、その商人は村長などにゴータマの話を聞かせたらしい。同席していた父もゴータマのことを聞き、尊敬し、いつか会いたいとユージンに言っていた。

そして、隣の国の武官になった父はいつしかその機会を得、天竺を旅しゴータマに会ったと聞いた。ユージンの記憶に鮮明に残っているのは、その時の父の表情だった。ゴータマのことを語る父の表情には歓喜が溢れ、とても高揚しているようだった。生き生きとした父の目にはその姿が焼きついているように思われた。

「きっとその人物はすごい力と人々を感動させる特別な何かを持っているに違いない。いったいどんなお方なのだろうか…」父の話を聞きながら、ユージンは思った。

「村の長老がトムに語っていた覚者というのはゴータマ仏陀のことかもしれない…」辛く悲しい長い一日が終わった。

疲れ果てたリチャードとラニーはヨランダの作った夕食を平らげるとすぐに眠りに落ちた。

母のいない家は寂しかったが、囲炉裏に集まった仲間達と一緒にいると寂しさを忘れさせてくれた。暖炉の火が優しく音を立てながら皆に暖を与えた。揺らめく火が彼らの頬を優しく照らした。ジュピターはなにやら思いつめて考え込んでいるユージンの顔をしげしげとうかがった。

すべてを察したようにジュピターの蒼い目が輝いた。何かが始まるに違いない…ジュピターはそう思っていた。

「旅に出なければならない…。しかし、弟と妹を家に置いていくわけにはいかない。旅にはトムと自分達三人兄妹、それにジュピターとタイガー、フレイジャーの三匹の犬。タイラーとライアンは祖母のヨランダを一人置いてくる訳にはいかない…」

そんなことを思いながら、ユージンは心に覚悟を決めたように真剣な表情になった。彼は心の中で大きな胸さわぎを覚えていた。

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※本記事は、2022年12月刊行の書籍『ジュピターと仲間達』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。