「私ってホント真面目だなぁと思ったわ。でもどうしても、つい、頑張り過ぎちゃうんだよねぇ。適当にしておいた方が楽だし、却(かえ)って上手くいくことだってあるかもしれないのにね。お母さんはどう思う? 皆は百人一首を暗記したって受験には意味ないって言うのよ、そんなふうに割り切ってしまえばいいのかしら」
「栞は冬休み、ずっと頑張ってたもんねぇ。だから合格できたんでしょう? 頑張ればいい大学に行けて、そうしたらいい会社に就職できるでしょ。それでいい人と出会って結婚できるんだから、それが一番幸せに決まっているじゃないの」
母の多恵子は歌うように繰り返し言って、栞の中にもそれは疑いようのない事実として、しっかりと刷り込まれていった。
「そうね、頑張って頑張って、頑張るから、幸せな結婚ができるんだわ」
美香にからかわれてダイエットを思い立つ一か月ほど前に、栞は学生時代からの恋人、小島亮と別れたばかりだった。小島は年は一つ上だが浪人していたため学年は栞と同じで、近隣のいくつかの大学の学生たちから成るサークルで知り合った。
サークルではテニスを始めとして大勢で楽しめる球技やボーリング、冬場にはスキー合宿やスケートにも行くような、よくあるスポーツを通した学生同士のお楽しみサークルだった。
何かにかこつけては飲み会も頻繁に行われたが、小島は出会ったばかりの頃から飲み会の席ではいつも栞の隣に座りたがって、栞への想いはサークル部員皆の知るところとなった。
いつも輪の中心にいて、面白い冗談を言いながらも周囲に気遣いができ、サークル内を上手くまとめている小島から好意を伝えられれば、栞もまんざら悪い気はしなかった。だから二人の仲が「公認」になるのには、それほど時間はかからなかった。いつも取るに足らないお喋りをして、あちこち出かけては美味しいものを食べてお酒もよく飲んだ。
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