アザレアに喝采を

Ⅰ 節制

栞の通った高校は進学校だったため、生徒に与えられる課題はいつもそれなりのボリュームがあった。中でも高校一年生の冬休みに百人一首を百首全て丸暗記する課題は、冬休みの二週間足らずの間にほかの教科の課題も出される中では、かなり負荷がかかるものだった。

それは毎年恒例の課題となっていて、冬休み明けにはテストも行われた。テストは一部空欄になっている箇所を埋めるとか、上の句と下の句を結び付けるような易しい問題ではなく、上の句が書いてあれば下の句を、下の句なら上の句を記述する形式で、百首全て出題された。だから百首を完全に暗唱できなければ合格は難しかった。

栞は冬休みが始まると、毎日十首ずつ暗記した。前日までに覚えた分も必ず復唱するようにしたので、新しく十首覚えるのに費やす時間は一時間程度だとしても、日ごとに復唱に時間がかかるようになっていった。

それでも計画を立てた通りに、十日目には百首を全て暗唱できるようになった。冬休みの残りの日は、覚えた百首を完璧にそらんじられるようにひたすら暗唱を繰り返して、万全の態勢でテストに臨み合格した。

時間をかけて真面目に取り組みさえすれば、誰だって合格できるはずなのに、合格したのは栞ただ一人だけだった。クラスの皆が大して努力してこなかったことが栞には大きな驚きだった。

適当にするとか、ほどほどにしておくという選択肢があるとは考えもしなかった。確かにクラスの男子が言っていたように、百人一首の丸暗記が受験にそれほど役立つとは思えなかった。だから暗記に多くの時間を費やすことは無駄だという考え方もあるだろう。けれど、与えられた課題をいい加減にすることは栞には決してできないことだった。

クラスの皆が合格するまで何度も追試を受ける中で、あんなに努力したんだから私は一回で合格して当然よと思う一方で、この一件で幼い頃から「栞ちゃんは頑張り屋さん」と言われてきた訳を自覚することになった。