トップアスリートを目指す妹

整えられた芝生の所々にテニスコートほどの花壇がある。イワタバコの仲間だろうか、青い糸車のような花が植えられている。ピンクのかわいい花がおびただしいとげに守られているのも見える。美しく整った花時計も見かけた。

道路に向かって軽く傾斜した斜面の、文字のところにはスノーフレークとムスカリが交互に植えられ今を盛りと華やかだ。その内にはパンジーの紫が映える。パンジーの外には杉のような葉の植物が高さ三十センチメートルぐらいに刈りそろえられ、斜面全体には芝生が美しい。それぞれの植物が自分という世界を懸命に生きていて、全体の調和も取れている。

「自分は自分でよいのだ。自分以上にも、以下にもなれない。自分が自分であるために泳ぐ。あくせくする必要はない」そう思えてくる。

思い返せば、小さい頃からずっと水泳をしてきた。おそらく物心ついた頃にはもう泳いでいた。兄の麗央が水を怖がったのに比べ、愛莉は水に浸かることを最初から喜んだと聞かされている。

水遊びが水泳に変化するのに、あまり時間はかからなかった。何時間でも泳いでいた。スピードも速かった。母が舌を巻くほどだったらしい。二歳ぐらいまでは十五メートルのプールだったが、すぐにもの足りなくなって、二十五メートルプールに通いだした。

その頃から、うっすらと記憶にある。かけっこを始めるより早く、周りの子供たちと二十五メートルの競争をしていた。その後、本格的にスイミングスクールに通いだした。

「まずは身体を素直に水に委ねましょう」と言われた。両手をできるだけまっすぐに上の方に伸ばす。力を抜いて前に倒れ、そのまま水に浮く。身体がまっすぐになったと感じたところで、少しだけ、床を蹴りながら、前に倒れる。

手も足も動かさず、ただひたすら、まっすぐに伸びていく。まっすぐに伸びているつもりなのに、少しでもおかしな力が入ったり、考え事をしていると、右に左に流される。邪念があるとまっすぐに進まない。

泳ぐことに集中し、力を抜いて姿勢を正すと身体は自然にまっすぐ伸びていく。身体が「まっすぐ」とはどういう状態か確認したら、ビート板を持ち、足だけで、次に手だけで泳ぐ。それからやっとクロールや平泳ぎを始める。