第2部の概観
第5章 しのぶ恋、かなわぬ恋 〜 式子内親王への追慕
人知れずしのぶ恋に悩む姿、燃ゆる想いなどを様々に歌います。想いは歌を重ねるごとに重くなってゆきます。この章で、定家のもう一つの秘められた強い想いが浮かび上がってきます。
章の半ばで、定家自身の歌「こぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くやもしほの 身もこがれつつ」と、かなわぬ恋が切実に歌われます。組み合わせになる第2首も、「いでそよ人を忘れやはする」と、その人のことは片時も忘れることはないと歌われます。
そして章の最後を飾る歌として、定家が秘かに慕っていたと伝えられる、高貴なる式子内親王の、しのぶ恋に耐えられない、こんなことならいっそ死んでしまいたいと歌う、「玉の緒よ たえなばたえね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする」が、配されます。
式子内親王は後白河天皇の皇女として生まれ、10歳の時から賀茂神社の斎院となり生涯を独身で通しています。定家が18歳の時に式子内親王のもとへの出入りが始まった時、式子内親王は未だ31歳の若さで、青年期の定家にとって、さぞかし憧れのまぶしいほどに高貴な存在であったことでしょう。式子内親王に対する特別の感情が秘められていたとしても不思議ではありません。
定家の、この秘められた思慕の想い、式子内親王に対する追慕こそ、この章、更には第2部全体の隠された主題であるのです。第1部が後鳥羽院、順徳院への秘められた追慕、鎮魂歌であるのと好一対となっているのです。
全編鑑賞の前に
ここまで読み進めていただいて、「えっ、そんなに都合よく並び変わってるの?」と疑問を持たれる方も多いと思います。是非、ここからの全編鑑賞をお読みいただいて、果たしてその疑問に答えられているかどうか、ご自身でご確認ください。
「これが本当に定家が密かに意図した真の配列(真序)か?」あなたも歴史探偵になったつもりで、この1000年の歴史ミステリーの謎解きに挑戦してみてください。
全編鑑賞
1〜5の各章は、それぞれ5つの節で構成されています。そして各節ともすべて、類似性の高い4つの歌で構成されています。
出だしの1首目、光孝天皇の歌の1-1-1という表記は、第1章の第1節の第1首目という意味になります。以降は、順に進んで、1-1-4は、第1章の第1節の最後第4首目となり、そこからは第1章の第2節の第1首、1-2-1へと続いてゆきます。そして全編の最後100首目は、式子内親王の歌で、5-5-4と表記され、 第5章の第5節の第4首目ということになります。
各節ともに、4つのフォトイメージで、その節の4首が紹介されます。
ほとんどの節が、類似性の高い2首組がふたつ並ぶ形で構成されていますので、わかりやすいように、類似性の高い2首組を見開きの2ページに配する形にしてあります。
続く【解説】で、その節を形作る4つの歌の意味合い、相互の響き合いをじっくりと鑑賞していただければと思います。
一つの節の中では、同一語や類似語が数多く見受けられます(下線で示してあります)。このことが、セットになっている2首の歌、或いは4首の歌の相互の響き合いを強めています。1節の中にいかに多くの同一語、或いは類似語があるかにあなたは驚くことになるでしょう。そこにも留意しながら鑑賞してみてください。
それではここから、「真序小倉百人一首」を、各節4首ずつ、全25節をじっくりと、ご鑑賞ください。「真序小倉百人一首」の歌世界、いにしえの叙情をお楽しみください。真序ワールドにようこそ。