「メンバー表いかがっすかあ」

「焼き鳥、ビール、水割り、ありまっせえ」

野太い声がする方を見ると、薄暗く細長い通路があり、その先から強い日差しが差し込んでいる。

「中田君、あっちがグラウンドだよ」

「うん」

僕らは光に向かって駆け出した。その光を抜けた途端、僕と中田君は、同時に「わあ」と言ったきり、何も言えなくなったんだ。

広大な外野に敷き詰められた、鮮やかな緑の芝。黒い土。何万人いるんだろう。観客席は白が目立つけれど、所々に違う色がばらまかれている。

浜風が運んでくる潮の香り。大きな銀色の傘がバックネットに覆いかぶさり、スタンドは何段あるのか、僕の目の高さからは、はっきりわからない。ヤジや応援がひっきりなしに飛びかい、その中を選手たちが自分の守備位置へと走っていく。

甲子園大会を讃える有名な歌が終わると、大歓声が僕らの周りから沸き起こり、観客が皆立ち上がって、割れんばかりの拍手を選手に送る。僕にもなんとなくわかった。確かに何だか、胸が熱くなった。

それから、僕らは何時間ここにいたんだろう。日はすでに落ち、照明灯からは強いけれど柔らかい光が、無人のグラウンドを照らしている。歓声もなく、人気もない球場を後にした僕らには、何の言葉も見つからなかった。その夜は死んだように眠り、翌日僕らは新幹線で帰途についた。

弘田さんは東京へと帰ってしまい、中田君は昨日の疲れが出たんだろう。隣でぐっすり眠っている。僕はもう心に決めていた。いつの日にか、僕はあのグラウンドの上に、縦縞のユニフォームを着て立つと。

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