第一章 プレイ・ボール
今、僕と中田君と弘田さんは、大阪へと向かう夜行列車の中にいる。僕はあの日以来、どうしても甲子園球場、あの夏田が投げていたグラウンドを見たくてたまらなかったんだ。
中田君を誘ってみたら、「本当? 絶対行くよ」と即答してくれた。
最初は二人だけで行くつもりだったのさ。でも、子どもだけでは危ないということで、東京まで帰省する弘田さんが同行してくれることになったんだ。
ビッグ・キャッツの観戦チケットは取れなかったけれど、高校野球大会なら大丈夫らしい。僕らの住む九州から甲子園までは、寝台列車で約十時間かかる。でも、僕と中田君にとって、その時間は天国だったよ。
クラスの女の子の話やテレビの話もしたけれど、結局、最後は野球の話につながっていく。僕らは広島も知らず、岡山にも気づかず、ただただ野球の話をした。
「中田君のグローブ、形いいな」
「いいだろー」
「何でそんな形になんの?」
「教えない」
「教えてよ、頼むよ」
「やだ」
「お願い」
「教えるから、ジュースおごって」
「いいよ」
「グリースって知ってる?」
「知らない」