四 波乱万丈の里山生活

その一 移住仲間たちとの夕食会

しばらくして振り返ると、主人の姿も見えず、辺りは静まりかえっている。すると、車のエンジン音がして、そして走り出したようだ。

道路が見えるところまで戻ってみると、主人の車が今来た道を走り去るのが見えた。

「捨てられてしまったのか。殺されなかっただけでも良かったのかな」と、妙な安心感に包まれた。

もうしょうがないから、森の中に入って棲み処を探そうと思った。だけど、おいらは生まれてから家の中しか知らない。自然の中での生活なんてすぐにはできない。食い物はどうしたら良いか分からない。

人間と同じような物を食ってきたので、自然の中で何を食えばいいのだろうか。水は清らかな小川があるから大丈夫だろう。

まだ、昼間で暖かいから良いけど、夜はもう秋なので寒くなる。暗くなったらどうしよう、怖いよ。民家に近づいたら、野良犬として捕まってしまう。保健所に連れていかれて殺処分だろう。 

「川沿いにいたスピッツ君だけど、野良犬として通報されて、保健所の人間が捕まえて昨日連れていかれた。可哀そうに、きっと今夜殺処分だよ。あの車に乗ったら最後で、もう殺されるのだよ」と散歩中の犬同士の噂話だった。

そして念を押すように犬同士で確認し合っていた。

「絶対に主人に逆らってはいけないよ! いいね、みんな! はい、ご主人様!と一言ワンと吠えて、尻尾を全開に振りまくりしないと駄目だよ!」

以上が、柴犬さんの話でした。

柴犬さんは落ち着いてきたので、静かに我に返って思い出しています。

「仲間の話を守って生きて来たけど、おいらはこうやって捨てられてしまった。何が悪かったのかな。この辺の民家の近くをウロウロしていたら、野良犬として連れていかれるだけだ。山の中に入らないと危ないな。我慢して山の奥に入っていよう。人間の自分勝手な振る舞いにはうんざりだ」

そう思って、柴犬さんは一匹になってしまった寂しさよりも、これからどう生きたら良いのかに、すでに頭の中を切り替えていました。

しばらく歩いて、小高い山の中腹に出ました。眼下には広く台地が広がっています。下の方に一軒家が見えます。その遠方には数軒の家が見えます。そしてその先の小山の向こうに、おいらの住んでいた都会がうっすらと広がっています。というか、目が悪いからそう思えるだけでしたが。

ただ眼下に一軒家があり、一人の人間が畑で働いているのは見えました。

「少し安心したから、今夜はこの辺りを仮の宿にしよう。少し休んで暗くならないうちに食い物を見つけよう。夜は怖いから静かにしていないと駄目だろうな」と柴犬さんは思いました。

柴犬さんは少し仮眠して元気になったので、何かを口に入れたくなりました。秋なので、木の実のような物があるのは都会でも知っていました。主人が散歩の時に、近所のおばさんから庭の黄色い木の実をもらっていました。柿と言っていたのは覚えています。

少しかじってみたら甘くて食えたが、主人は「犬は柿を食ってはいけない」で終わってしまいました。