第3章 鍼灸師が扱う代表的疾患改善の施術法
腰痛症
5.腰痛症の診断法
・気の受信による虚証経絡の判定
近藤哲二先生は、その著述の中で組織、器官、臓腑に炎症があると、経絡の流れの左右差が顕著になり、それが極まると「井穴での気の受信で虚証を感知する事ができる状態になる」と言われます。その場合、その虚証経絡の井穴にパイオネックス0・3ミリを貼付する事で「虚証を消す事ができ」経絡の流れが正常に戻って、該当経絡支配の組織・器官・臓腑の炎症が治まり腰痛が快方に向かう、と言われています。
従って、近藤哲二先生の考えによれば、腰痛には肺経から肝経まで、12経絡特有の腰痛がある、という事になります。参考にすべき見解です。
気の受信で虚証経絡を判断するには、各井穴に「鍉鍼(テイシン)」を当ててみて、患者の愁訴が軽減し同時に術者の眉間に開放感が広がるか否かで判定する方法があります。難しいようでやってみると案外簡単に分かる方法なので、是非実践してみて欲しいと思います。
この気の受信によって、虚証経絡を判定して、虚証解消処置をする事は、長野式処置を効果的にする上で、必須の作業となるのです。何故ならば、虚証経絡上の経穴への鍼灸刺激は、鍼灸の本来持つ泻(しゃ)法の強調になり結果的に、虚証経絡を「より弱めてしまう」事になり、腰痛を悪化させてしまう事になりかねないからです。
・触診と問診
脊柱管を左右から挟むように触診して、狭窄箇所や椎間板ヘルニアの有無を確認します。同様に、脊柱起立筋の一側線と二側線にある背部兪穴を触診して内臓反射点の確認をします。
この作業が、背部診です。腹臥位の患者さんの足の開き方や足先の長さの差異も観察します。次に患者さんを仰臥位にさせて、正中線(任脈)、胃経、脾経、肝経の要穴を、軽擦し浅圧迫や深圧迫をして、患者さんのうける感覚や、術者の指頭に感じ取れる硬結や不快感を総合的に判断して病態を推測します。この作業が腹診です。
最後に、左右の帯脈の硬結の有無と強弱、胸鎖乳突筋硬結の左右差を触診します。前者の硬結の左右差が大きい場合には腰椎の、後者の場合には頸椎の捻れがある事が多いものです。
触診で分かる例として、肝臓の辺縁系が硬い場合には肝機能障害や肝硬変や肝臓癌が、肝臓左葉にブヨブヨ感がある場合には脂肪肝や肝炎や肝門脈鬱血が認められる事が多いようです。これらの所見がある時は、問診をして患者さん自身の感覚と一致した症状の原因を取り除く処置をしてから、腰痛治療をします。
同様に、触診でわかる例として、胃経の不容穴に圧痛がある場合には胃の噴門部や食道下部の炎症やポリープが、承満穴に圧痛がある場合には胃小彎部に潰瘍が疑われます。胸やけや胃もたれ・不快感が、空腹時にあるのか食後にあるのか、患者さんの主訴を問診して病態を推測し、改善処置をしてから腰痛治療をします。