第1部 政子狂乱録

三 亀の前の厄難

「どうじゃな、亀どの。初めて裏門のおぼこを汚された心持ちは、これが其方へのお仕置きじゃが、どうして、どうして、なかなか心持ちものよいものであろう」

政子は亀に対して、淫靡な仕置きを続けながら自分の躰にも久しく遠ざかっていた情欲が湧き出していた。

「ウウウッ…… 御台様、上様のお道具が亀のお尻のなかで暴れておられるのは、えも言われぬ奇妙な心持でございますよ。少し痛いけれど、不思議で得体のしれない気分……これまで味わったことがございません。何だか、五色の雲に包まれたような感じで……」

牢主はあきれ顔になり、

(なんと、この女はお仕置きをうけながら、臆面もなく善(よ)がっているではないか、後ろの御門もそんなによいものであろうか)

「あっあがあっ、御台さま、いっ逝きそう、お尻で逝ってしまう……うっうぐぐ、いっ逝くーーっああああ」

亀の前は、自分の体の中に得体のしれない魔物が入り込んで自分を虐めているのではないかと思った。もはや見栄も体裁もなく未知の悦びに無念の絶頂を迎えるときがきた。

政子の巧みな手淫に加え「長命丸」の効果が亀の前の初めての経験を豊かなものにした様である。

「亀どの、今度は貝合わせ(貝に例えた女陰)で二人励みあおうではないか、そなたも妾(わらわ)に後れを取らずにしっかりと無間地獄に堕ちるのじゃ!」と今度は貫禄をつけたような口調で命令した。

亀の前が政子に菊門の刑をうけた後に、ご牢内で繰り広げられた二人の情景は、江戸初期に表わされた『秘事作法』の内容を参考に想像たくましく描写してみる。

これは備州岡山藩池田侯の秀麗尼(しゅうれいに)という側室が、御殿女中への指南を目的に、一人慰み(自慰)と女同士のセックスの技法を懇ろに説明した門外不出の書で、殿様と奥女中の性生活の様子をうかがい知ることができるが、外部の人間が見た時に意味が通じないような言葉使いで著わされている。

発情期を迎えた二匹の雌猫さながらに政子と亀の前は、息つく間もなく卍(まんじ)の形に重なりあった。

頼朝の形代として、とりあえずお役目を果たした「互い形」は、二人の前後の穴から抜け落ちて、ヌメヌメとテカリながら放り出されている。