題材の段落ごとに交代して読んでいき、だからこそ簡単な1~2行の「アタリ」もあれば、10行近く話す「ハズレ」もある。そうは言っても基本どの列を、又どの段落を読むかは、授業が始まれば容易に予想できる事なのだが、それでも俺はそれを馬鹿正直に「当たらないでー!」と心の中で懇願してやりすごそうとする。
数ヵ月の経験談からこういったものは下手に「やっべ! やっべ!!」と挙動不審になるよりは、頭を空っぽにして几帳面な態度をとっていた方が当てられにくいと考える。それは当てる担当教員からも「そいつに当てても、何の面白みも無いな」と考えてしまうからで、教師も授業を面白くしたいという気持ちの現れなのだと客観的に俺は考察する。
そして、その初めの課題たる本読みが終わってしまえば、いつも通りの退屈な授業に成り下がる訳で、以降は頬杖をついて楽な体勢をとりながら黒板に板書された内容をノートに書き込む作業になる。
突然ツンツンと肘に小さく固いものが当たる感触がして、無気力だった脳内警戒レベルを一気に上げる。不意にそれは、隣に座る日下部アイリの勉強の邪魔をしてしまったのかと思い、真顔で「ごめん」と顔も見ずに言ったが、何故か彼女のノートが必要以上に俺の机に跨いでおり、そのノートの端には『リーダーからの話聞いた』と綺麗な字で書いてあった。
「?」
恐らく彼女のノートが肘に当たってしまったのであろう事は理解できるが、その書いてある暗号のような文面は、何の事だかまるで分からなかった。
国語の宿題でもあるまいし、班の役割の事でもないだろう……。彼女は俺の鈍い反応を確認したのか、即座に自分のノートを取り上げ先程の暗号に数文字書き足し、またノートを寄こしてきた。
『リーダー(院さん)からの話聞いた?』
「(!?)」
それを一瞥してから、途端に俺は思い当たる人物が頭に浮かび上がり、目を丸くした。
驚きのあまり席から転げ落ちるかと思った。
「(え? え⁉)」
思わず彼女の顔を見ると、彼女の顔は前(黒板の方)を向いていたが、瞳だけ俺を睨むようにこちらを見ていた。