『変化するコミュニティ』

◆ Side Soru

病院前のベンチに居座っていたオレは少年を見送った後、一人で駐輪場へと赴いた。

「……勧誘、失敗したの?」

後方からよく知った人物の声が聞こえ、思わず口を緩め振り向いた。

「んー、まあ、相手はまだ中学生だし、そんなすぐに『勧誘』なんて話は出来ないなって」

「え、結構サバサバしてるんだ、意外。ソルならもう少し食い下がると思ってた」

「んなことしねーわ」

いつも大学で聞く彼女の口調を耳にしながら、ヘルメットを被りバイクに跨る。

「でも、皆期待してるんじゃないの? なんたって、完全展開(・・・・)出来る唯一の子でしょ? これならソルも憑依生命体と闘う時、ちょっとは余裕出来るんじゃないかな」

「そうだな。だからこそ、諦めたわけじゃない。必ずあいつにはうちに入ってもらう」

「うん」

そうして、けたたましいエンジン音を吹かせ、会話していた女性を横目にバイクを走らせる。

◆Side Rekka

病院から家までの案外近い距離にあたる帰路に差し掛かる。

もう夕飯時か、気が着けば「夕暮れ」という言葉が相応しいほどに、空が茜色に染まっていた。

今日はいろんなことがあった。

中でも一番印象に残っていることは、やはりあのことだろう。

あの時の、自分じゃない自分……。 

いつも通りの自分の体じゃないという感覚が未だに残っている。

こんなに現実離れしている現実があるのか。 

困惑した感覚が改めて俺に、あのことが現実であることを実感させる。

「……」

俺は、その元凶とも言える病院に顔を向けて、一晩と半日が経った工事中のそれを見つめた。

「あれは……、夢じゃなかった。ほんとだったんだ」

そう自分に言い聞かせるように呟いた。

「(あの時は、このブレスレットが光って、あの姿になれたんだよな)」 

続いて、手元のブレスレットを見つめた。

しばらく見つめていても、そのブレスレットに埋め込まれた宝石状の石物はウンともスンとも反応してはくれなかった。

仕方ないので不安と期待とその他諸々の感情が混ざったものを心に置き去り、目前に広がる帰路に目線を戻す。

帰宅してからはやることがいっぱいだ。

先程会った青年にいくら「SPHが追ってくるかもしれない」と脅されても、いつまでも溜息と不安感に苛まされている訳にはいかない。

一人暮らしは何もなくとも忙しい。

途中でコンビニでも行って夕飯を買って、洗濯物を取り込んで、風呂を沸かして、……ああ、明日の学校の用意をしなきゃ。 

いつもの日常で既にキャパシティーを満たしている。彼の戯言のような言葉に耳を傾けている暇はない。

「……はぁ。 なんなんだよ、ほんと」