カエルのつけもの石
しろうさんのお店は、以前(いぜん)は、人気のつけもの屋さんでした。大根(だいこん)に白菜(はくさい)に人参(にんじん)、ナスにキュウリにキャベツ、色とりどりのつけものが、ならんでいました。
「いらっしゃい、いらっしゃい、うまいよ~」
「大根ちょうだい」
「白菜ちょうだい」
「ここのつけもの、おいしいのよね」
「まいどあり~」
しろうさんは、お客さんが、うれしそうにつけものを買っていく顔を見るのが大すきでした。ところが、近ごろ、だれも、お店に入ってきません。
「いらっしゃい、いらっしゃい、うまいよ~。つけもの、いかがですか?」
道行く人に、声をかけてみると、「うちの子、つけものよりサラダがすきなのよ」「つけものは、においがね」そんな言葉が、返ってきました。
「どうしたら、また、みんなが、つけものを食べてくれるかなあ?」いろいろ考えていると、近所のねこがやってきました。
「ほら」売れ残(のこ)りのつけものを、ねこの前に、おきました。ねこは、ちょっとにおいをかいだだけで、向こうへ行ってしまいました。
次の日のことです。
(昨日のねこにもみんなにも、なんでもいいから、人気のつけもの屋になりたいなあ)しろうさんは、そんなことを考えながら歩いていると、空きカンにつまずいて、ころんでしまいました。
「いたたた」しろうさんは、カンをひろって、ひっくりかえしました。すると、中からカエルと小石が出てきました。
「ひどいよ。さっきは、けとばして、今度は、さかさまなんて」出てきたカエルが、こしをさすりながらいいました。しろうさんは、カエルがいきなりしゃべりはじめたので、びっくりしました。
でも、カエルは、そんなことは、いっさい気にせず、「カンから出られたから、お礼に、いいものをあげるよ」そういって、自分といっしょにカンに入っていた、小さな石をさしだしました。
「そんなもの、いらねえよ」しろうさんが、そっけなくいうと、「これがあると、思っていることが、かなうのに」カエルはそういうと、草むらに入ってしまいました。