【前回の記事を読む】目の前を行く韓国人3人組に日本語で「微妙な三角関係」と話しかけると…

第一話 カミーノを歩く人たち

12月9日

スタンプの押されたクレデンシャルとパスポートを持って巡礼証明書の申請に行った。ここで申請すると証明書が発行されると同時に、昼のミサで出発地と国名が読み上げられるという。

昼のミサまで時間があったので、街を巡る観光ミニトレインに乗った。ホテルの前を通ると、隣のスーパーマーケットの前でオーナーが手を振ってくれた。

一緒に日本から来たツアー客が乗っていたので、昼のミサで日本人が出たら私のことだからと言うと、「歩いたの」と言ってびっくりしてくれた。

厳かなミサで、周りの人の多くは涙ぐんでいた。私も、「サリアから日本人」と読み上げられたとき、ジーンときた。このときやっとここまで歩いてきたのだと実感した。

韓国のグループの人たちはなぜかバラバラに座っていた。この場を一人で味わいたいのだろう。みんな涙をぬぐっていた。いいシーンだった。涙の中にきっと忘れがたい何かが刻まれているのだろう。

それまで、「宗教は何」と聞かれて「ない」と言うと不思議な顔をされた。何かを求めて歩く人たち、何かを求めて歩いただろう人たちを意識して感動したのは初めてだった。自分の経験にはなかった世界があると意識した初めての旅ではなかったか。

世界中の人が、この場所でこれまでの人生を考え、自分の大切な人を思い、これからの人生に自信を持つのだろうと漠然と思った。

私はこの道を歩いたことで何を得、何を考えたのだろう。私の目が見たものは何か。私の心が感じたものは何か。忘れてはならないものは何か。美しい景色は鮮やかに残っているが。

第2話 素粒子って何

007シリーズの名作『ロシアより愛をこめて』が上映されたころからロシアという言葉のエキゾチックな響きにひかれていた。雪に閉ざされた美しい寺院や街並み。赤の広場、クレムリン。

とりあえずモスクワとサンクトぺテルブルグに行ってみようということで計画した。夏真っ盛り、暑さをしのげる絶好の観光地だ。しかし、前日から体調が悪く、行けるかどうかも怪しかった。

2017年8月22日

午後3時ごろ到着したモスクワはなんと30度という暑さだった。前日の体調の悪さはまだ残っていたので機内食はほとんど手を付けなかった。ネットで市内へのアクセスも調べていなかったし、両替も空港ですればいいと、現金は持っていなかった。