はじめに
海外旅行が好きなわけ
4月に新しい教科書をもらうとぱらぱらと面白いところを読んだ。物語が多かったが、新しい本のにおい自体も新鮮で、これから始まる新学期に少しだけワクワクするものがあった。
教科書は私にかなり影響を与えたと思う。
小学校の国語の教科書、たぶん6年生の巻末にあったトルストイの「この瞬間を最善に生きよう」という詩は読んだ瞬間に衝撃が走るほど、まだ豊かな感受性を持っていた少女の胸の奥に突き刺さった。過去はすでにないし、未来も今はない、それだから今あるこの瞬間を最善に生きようというもので、成長しても好きな言葉を問われると最初に浮かぶ言葉だった。
中学2年の時、美術の教科書でモネの「黄昏ベニス」という絵を見た。淡い色調の中にぼんやり浮かぶ灯台、見たことのない幻想的な絵だった。この絵がどこにあろうともいつか絶対に見に行こうと思った。思いもかけないほど近く、東京の、当時のブリヂストン美術館にあったのだが。
世界地図を眺めるのも好きだった。
小学校の高学年の頃、給食の待ち時間に地図を広げて班のみんなで国名や首都名のしりとりをよくやった。西アフリカにあった「象牙海岸」という国名にひどく引き付けられた。今はその名の通りコートジボワールという。アフリカの地図は学年が進むにつれて変化していくのが不思議で面白かった。ローデシアが地図から姿を消してしまった頃、地図上でローデシアを探してというクイズを友達に出して何度も楽しんだ。