地理や歴史の教科書の写真にも忘れがたいものがある。
まずはアイスランドの写真だ。氷河に閉ざされた寒い国にもかかわらず火山の噴火がたびたびあり、山の斜面を海岸まで溶岩が下っていく写真、たぶん白黒の写真だったと思うが、それを見たとき、私は絶対この国に行こうと決めた。
それは退職した翌月に実現した。一人で飛行機を予約し、ブッキングドットコムで手ごろなホテルを7泊予約後、ガイドブックも持たずに出発した。満を持しての旅は予想以上に楽しいものだった。
乗り継ぎのコペンハーゲンで出会った旅慣れた日本人親子とディナーの約束をした。安くておいしいところがあるから一緒に行こうと言われたのだ。
でも実際はヒルトンホテルのレストランで、一品ごとに味はどうかと聞いてくるようなレストランだった。カニやサーモンを食べたが、見た目もきれいでおいしかった。簡単なコースだったが、1万円以上するもので、私が海外旅行で食べた料理の最高額をいまだに維持している。また次の日もと誘われたが丁重にお断りしたことは言うまでもない。
街の中心にある変わった形の教会では毎日正午にパイプオルガンのコンサートがある。それと同時に食堂ではボランティアによって温かい昼食がふるまわれる。パン食べ放題、スープ飲み放題、コーヒーもお替り自由だ。料金は4ユーロだったと思う。当時ペットボトルの水が2ユーロするほど物価の高いアイスランドでは破格だ。さらにパンもスープの味も絶品だ。
1日バスツアーで一緒だった中国人女性とブルーラグーンでまた会った。北京の大学生だという。広い場所で顔だけしか見えないのにすごい偶然で話も弾んだ。
ブルーラグーンでは日本人の4人旅の人たちにも出会った。彼女らの話では前日泊まった近くのホテルからノーザンライツ、つまりオーロラがきれいに見えたそうだ。レイキャビクではうっすらと緑色が揺れたかなという程度だった。
氷河トレッキングや滝めぐり、黒砂海岸などに行く4WDのツアーでは台湾出身でロンドンでワーキングホリデー中の女の子に会った。トム・クルーズがかっこいいという話で盛り上がった。
ホテルの部屋からは小学生たちの通学風景や、公園で遊ぶ姿が見えた。こんなに治安のいい外国は見たことがない。
忘れてはならないのがホテルのスタッフだ。毎日その日の予定を話したりしていたのでもちろん顔見知りだ。最後の夜もオーロラツアーをそのフロントで予約していたのだが、バスに乗ろうとすると予約はないし、バスは満員だから乗せられないと言う。何度か押し問答をしたが乗せてくれない。
仕方なく戻ってフロントにそう言うと、そんなはずはないと飛び出していった。バスの係と怒鳴りあいの大げんかをして結局乗せてもらえることになった。バスは本当に満員で、私は係員の横の特等席に座った。客のために私ならそこまでできるだろうか。
社会の教科書のアイスランドの写真が私にこんな上等な旅を与えてくれた。