第3章 鍼灸師が扱う代表的疾患改善の施術法
腰痛症
1.概要
腰痛症は、鍼灸師が扱う疾患の典型且つ最多のものです。腰痛を治せたら一人前と言われるほど奥が深く、改善法も多岐に及びます。同時に、腰痛は体のあらゆる疾患が最終的にたどり着く愁訴発現箇所でもあります。従って、単なる腰痛と即断せずに、全身的治療の観点からの治療姿勢が大切です。
2.分類
急性・亜急性・慢性腰痛に分類されますが、いずれも腰椎椎間から出る神経根が圧迫・狭窄されることによって、坐骨神経経路や大腿神経経路に沿った疼痛を自覚する症状であって、神経の痛みではありません。痛いと感じるのは、特定の部位の異常を脳に求心的に伝える機序であり、神経は伝導経路です。急性腰痛は、慢性腰痛状態が継続しているうちに、生体の限界つまりキャパシティーをこえる状態に移行した場合に、突然に起こるものです。
3.私の見解
細菌感染や、脊椎に腫瘍ができた場合にも腰痛はおきますが、これは稀なケースであり、ほとんどの腰痛は イ筋・筋膜性腰痛 ロ骨格系変形による腰痛 ハ内臓疾患性腰痛 ニ姿勢性腰痛に分類され、これらは、互いに関連しています。この関連性を理解しないと、対症療法にとどまってしまい、腰痛症の治療としては、効果のあがらないものになってしまいます。個々の腰痛原因を分析した後、互いの関連性を述べます。
筋・筋膜性腰痛は、特定の筋・筋膜や靱帯や結合組織のみを酷使したり打撲したりして血行障害が起こり、新陳代謝が低下して疲労物質がたまり、酸欠状態に陥った結果、当該部位が硬くなり、無理して動かそうとすると、痛みを感じる腰痛です。これは、腰痛に限らず膝や肩や首にも起こるものです。
骨格系変形による腰痛には、椎間板の中身が飛び出して神経を圧迫して痛む椎間板ヘルニアや、椎間板の退化や老化により棘状物質が神経に刺さり痛む変形性腰痛や、骨密度低下による圧迫骨折を原因とする腰痛があります。
内臓疾患性腰痛は、特定の内臓疾患のヘッド氏帯反射としての腰背部の筋硬結を原因とする脊椎神経圧迫による腰痛です。この腰痛を引き起こしやすい内臓疾患としては、肝臓、膵臓、胃、生殖器、肺の順での臨床例が多くみられます。
姿勢性腰痛は、文字通り特定の姿勢の継続による、筋・筋膜や靱帯や結合組織の硬直を原因とする姿勢性脊柱後弯症や姿勢性脊柱前弯症や姿勢性脊柱側弯症の状態になった場合に起きる腰痛です。最近多く見られる「スマホ首」の影響下の姿勢性腰痛もあります。
4.腰痛を起こす誘因(私の見解)……腰痛を主訴とする方にはほとんどの場合冷えが認められます。冷えにより血管が収縮し、その結果内臓機能が低下することが腰痛の誘因となりますので、腰痛症の治療には、前提として冷えとり治療が必要になります。
同様に、腰痛症の方には「瘀血(おけつ)」が多く見かけられます。瘀血があると、血流が滞り、その結果として内臓疲労や内臓疾患が起こりやすくなりますので、腰痛症治療の前提として、瘀血処置(長野式)は必須の治療になります。
更に、臨床上、腰痛症の方には内臓下垂の方を多くみることもできます。胃下垂による骨盤内臓器や骨盤への重力的変位が腰痛の誘因となります。子宮癌による子宮摘出手術によって、子宮のあった部位への内臓下垂も、腰痛を起こす誘因になります。