【前回の記事を読む】結婚はタイミング?容姿に自信のある私ならいつでも結婚できると思っていたけど…。
結婚のカタチ
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彼には十歳の女の子がいるが、前妻が引き取って育てている。仕事が忙しく、一緒に過ごす時間が少なかったのが離婚の原因だったらしい。美紀に言わせると、そんなことは結婚前から分かっていただろうと思うのだが、頭で分かっていても、実際にその立場になってみればまた違う受け止め方になるのかもしれない。
奥さんはもっと家族だんらんの時間を持ちたかったのだろう。話し合いの結果別れたのは数年前で、それ以来毎月養育費を支払っているらしい。互いに嫌いになって別れたのではないので、年に何回かは会って食事をすると聞いている。よりを戻すのではないかと多少不安を感じるが、健一は、復縁はあり得ないと言い切る。
夜七時半、玄関のチャイムが鳴った。彼が訪ねてきたのだ。
「いらっしゃい。夕食作って待っていたわよ」
「こんばんは。デザートのケーキを買ってきたよ」
「まあ、ありがとう。冷蔵庫に入れておくわ」
「おや、いい匂いがしているね」
「ビールも冷やしてあるから」
美紀はいそいそと健一の背広の上着を受け取り、玄関のクローゼットにかけた。健一はネクタイを外しながら冷蔵庫からビールを出すと、二人のコップに注いだ。適度に泡が出て美味しそうだ。
「では、乾杯」
「乾杯」
健一は喉が渇いていたと見え、ゴクゴクと美味しそうにビールを飲んでいる。
「うまい。夏はこれに限るね。さあ、今日はゆっくり美紀の料理を楽しもう」
「うれしいわ。仕事帰りに外で一緒に食事しても、あっという間に時間が経って別れるのがつらいから、我が家で一緒に過ごせるのはとてもうれしいのよ」
「君も仕事をしているから、あまり負担になると悪いと思ってね」
「気を使ってくれてありがとう。今日はお肉とお魚が新鮮だったので、たたきとカルパッチョにしたのだけど、どうかしら」
健一はカルパッチョを取り口に入れる。
「いや、文句なしに美味しいよ」
「この浅漬けは、お漬物というよりはサラダ感覚で食べられるように、辛さを控えてつけたのよ」
「うん、おいしい。しゃきしゃき感が残っていて、酒のあてにもおかずにもなるね」
「気に入ってくれてよかった」
メインのおかずを食べたあと、お豆ごはんとシジミとわかめの味噌汁で食事は終わった。次はデザートである。美紀は冷蔵庫からケーキの箱を出し、ケーキ皿に取り分ける。
「あら、おいしそう」
「君が好きだと言っていた、ピーチのケーキとチーズスフレを買ってきたんだ」
「本当にこのケーキ屋さんのは美味しいのよね。飲み物は紅茶でいいかしら」
「いいよ」