美紀は紅茶をポットに入れしばらく待ったあと、カップに注いだ。二人ともストレートが好みだ。ケーキを食べ終わり、食器を流しに運んでいると、健一がキッチンにやってきた。

「食器は僕が洗うから、他の片付けをしていいよ」

「ありがとう。いつも助かるわ」

「いや、独り身で慣れているから」

美紀はケーキの箱や、紅茶のティーポットを片付けた。

「あとは、テーブルを拭いたら終わりよ」

「OK。こちらももうすぐ終わりだ」

台所もテーブルもきれいになり、ようやく落ち着いた。二人はリビングのソファーに並んで腰を掛けた。健一の腕が美紀の背中に回り、美紀を引き寄せた。

「美紀、愛してるよ」

健一はそう言いながらキスをした。美紀もそれに応じて健一に体を預けた。

翌朝六時半。マンションの前にある公園から、ラジオ体操の音楽が聞こえてくる。

「もう、週末ぐらいお休みすればいいのに。ゆっくり寝られないわ」

美紀はベッドから起き上がり、両手をぐっと伸ばし伸びをする。健一は気にならないのか、ぐっすり眠っている。美紀はそっと寝室を抜け出し、キッチンへ入っていった。何となく昨夜の余韻が体の芯に残りけだるい。

今日一日一緒にいられると思うと、気持ちがウキウキする。朝食はパンとコーヒー、それに卵と野菜サラダ。コーヒーメーカーでコーヒーを作っている間に、スクランブルエッグとサラダを作る。テーブルセッティングをして食パンをトースターに入れ、健一を起こしに行く。

「健一さん、朝ご飯の用意ができましたよ。起きてください。朝ですよ」

そう言いながら、健一のおでこにキスをした。

「あ、美紀。おはよう」

健一は、起き上がると美紀のほほにキスをした。

「さあ、食事の用意ができたわよ。いただきましょう」

「OK」

二LDKだが、リビングはかなり広い。右側の窓は出窓になっていて、ヨーロッパに行ったときに買ってきた陶器の人形が飾ってある。窓には、ドレープが美しいレースのカーテンが掛けられていた。

その前にあるダイニングテーブルの上には、ランチョンマットが敷かれ、ブルーのラインが入った品のいいコーヒーカップと、卵とサラダの入った皿が並べられている。美紀はトースターからパンを取り出し、小ぶりのパン皿に載せ、テーブルに運ぶ。

健一はコーヒーができているのを確かめ、カップに注ぐ。二人ともコーヒーは少し薄めに作り、ブラックで飲むのがお気に入りだ。健一はカップを手に、静かに一口飲んだ。

「うん、美味しいね。この間来たときのコーヒーと違うブランドだと思うけど」

「あら、よく覚えているのね。これは、友人からいただいたグアテマラのコーヒーよ。結構美味しいので気に入っているの」