業者の方にお願いすると、
「数年前に近くで井戸を掘ったけれど、十メートル掘っても水が出なかった。ここもきっと出ないだろうから、掘らない」
との返事だった。そこで別の業者に頼むと、
「いくらでも水が出るまで掘るが、お金はそれだけかかる」
といわれた。迷った末に、最初の業者の方に、
「とにかく掘ってみてください」
とお願いした。井戸を掘る作業の日、私はほかの用件があったので、
「とにかく、よろしくお願いします」
とあいさつをして外へ出かけていった。用件を終えて、まだ建築作業中の園舎に帰ってくると、
「園長、おめでとう!」
の声があちらこちらから聞こえた。水が出たのだ。しかも五・五メートル掘ったところから。
いま子どもたちは、手押しポンプで水を出し、ダイナミックに遊びを展開している。子どもは水と砂と泥が大好きだ。夢中になって川を作ったり、トンネルを掘ったりしている。そんな様子をテラスから見ていたとき、四歳児の女の子が私の足元にやってきていった。
「えんちょうせんせい、だいはっけんしたよ! みてみて!」
手にはペットボトルと、水の入った薄いプラスチック製の四角い容器をもっていた。
「ペットボトルにみずをいれるとき、このかどのところからいれると、こぼさないでいれることができるよ。まだだれにもおしえていないよ。すごいでしょ!」
「それはすごい! だいはっけんだね! いちばんにおしえてくれて、ありがとう!」
大人にしてみれば、なんだそんなことか、というあたりまえのことだ。