【前回の記事を読む】殿である兄と対立してでも救いたい命「つき丸…頑張るのだ…」

湖上の城

翌朝、夜半に止んだ雨の雫が軒下に落ち、腰付障子から朝の光が臥所を照らしていた。顎をぺろぺろと舐められる感触で源五郎は目を覚ますと、つき丸が臥所の中で元気に尻尾を振っている。

「おぉ! 良くなったようだな、本当に良かった!」

つき丸はよたよたしながらも、自分の足で歩き臥所から這い出て来た。起き上がり胡坐をかいて座る源五郎の太腿に寄り添い、足を投げ出すように座った。その後ろ姿はどこか朦朧(もうろう)としていながらも、辺りを見渡している。

「精がつくように、(かゆ)へ刻んだ(にら)を入れてやろう」

源五郎はつき丸を抱きかかえ厨へと向かうと、くまが声をかけてきた。

「あれ、元気になりましたけ? ようござりましたな~」

「あぁ、これなれば大丈夫だろう。粥に韮を細かく刻み入れてやってくれ、まだ本調子では無い故、あまり入れぬようにな」

「へぇへぇ、分かっております」

支度を整え与えた粥を、のろのろとだが少しずつ食べるつき丸を見て、食欲の出た事に安心した源五郎は、優しく微笑みそれを見守っていた。

穢多えた女童めわらべつき丸が源五郎の元に来てから数日が経ったある日。源五郎は鍛錬の為時折持ち歩いている木刀を手に、つき丸を連れ城の周りを散策していた。つき丸は仔犬の足で何とか源五郎に追いつこうと、一生懸命ついて来る。その愛らしい姿を振り返り確認しながら、気ままに歩を進めた。