「大事ないか?」
源五郎が声をかけると、その女童は黙って頷いたが、立ち上がろうとして足の痛みに耐えかね、再び川の中に尻餅をついた。源五郎は川の中に入り歩み寄ると問うた。
「歩けそうか?」
「大事ありませぬ……」
応えた女童の言葉の抑揚が、地元の者と違う事に気づき、
「おぬし他国の者か?」
と聞いた。
「祖父母は西国の者です」
再び立ち上がろうとしたが、やはり足の痛みで立ち上がれない。
「無理をしては余計ひどくしてしまうぞ、俺が背負って家まで送ってやろう」
女童はひどく驚いた様子で、
「わたしは穢多でございます……」
「穢多だろうが非人であろうが、人である事に変わりあるまい」
源五郎は背を向けしゃがみ込んだ。女童は恐る恐る肩に手をかけおぶさる。その手に櫛が握られているのを見て、源五郎は察しがついた。恐らくこの櫛を川に流してしまい、それを追いかけてここまで来てしまったのだろう……。
「名は何と申す?」
「まゆ、と申します……」
「源五郎と申す。お前の住まいはこのまま行けばよいのか?」
「はい……。申し訳ありませぬ……」
膝を屈め伸ばす事で、自らの背の上のほうにまゆを押し上げ歩き出した。