第3章  ≪エピソード≫ 職場に行くのがつらい

4 メンタルクリニックを利用する

休職に入っても症状がよくならず治療が長くかかる人もいますが、診断書を出してもらってパッと退職するケースなどは、目的は治療と言うよりも社会関係の穏便な解消であると考えられるので、それが達成されると症状もよくなるのでしょう。言ってしまうと、メンタルクリニック利用型です。ある意味では問題解決的に行動していることになり、リスクは他のタイプよりは高くありません。

また診断書を希望するのは若者だけではありません。中年以降で技術職から事務職に変わるなど今までと違う仕事に異動になり、うまく行かず、抑うつ状態になり、メンタルクリニックを受診し、診断書を希望する人もいます。

病名(障害名)と療養見込み期間だけでなく、異動してから具合が悪くなった、あるいは今の仕事が原因であるという意見を書いてほしいという人もいます(初診でなおかつ現場を見ているわけではないし、わからないことはわからない、書けないことは書けないのですが)。

職場もしくは仕事内容によって、心身ともに具合が悪くなった場合の受け皿が、今やメンタルクリニックであり、救いを求めるあるいは利用するという社会的アイテムになっているのかもしれません。

これらのエピソードが同じ状態、同じ障害群を指しているかどうかはわかりません。若者が職場や仕事に対しストレスを感じ、身体症状を伴う精神症状を呈しているということしか共通点はありません。

ストレスに対する反応や症状も、個人の性格・能力と職場の環境・状況の複合的な帰結と考えられるので、十人いたら十人違います。同じような状況にいても、反応を起こす人も起こさない人もいます。反応を起こさない人から見ると、起こす人はその状況への適応に障害をきたしていると表現されても違和感はありません。

この「適応できていないよねー」と日常会話で表現するのと、精神障害に数えられている適応障害には違いがあります。日常的にうまく行っていなくても、精神障害であるとは言えません。

しかしながら、これら若者の症状は、やはり第2章で見た適応障害の説明とは若干ズレています。これはどういうことでしょう。