第3章  ≪エピソード≫ 職場に行くのがつらい

3 自殺に至ってしまうかもしれない

≪現場からはずされ、仕事に行けなくなったFさん≫

これらの症状を自覚し、何らかの反応がある場合、仕事を休むとか同僚や上司に気づかれるなどがあれば、メンタルクリニックの受診につながることもできます。しかし症状があってもブレーキをかけられず、がんばり続けると過労死や自殺などのリスクが大きくなると考えられます。自己犠牲的にがんばるよい子が多いのかもしれません。

残業の多さ、過労、睡眠不足は仕事のパフォーマンスを下げるだけではなく、精神的な視野狭窄(きょうさく)をもたらします。理不尽と思える要求やパワハラチックな叱咤(しった)激励は、自分を責めさせ、弱音を吐き現状を振り返るチャンスを少なくします。

理不尽な状況と長時間労働のセットが多く、若者に限ったことではありません。このような状況は、ブラックか過労かというドラスチックで異質な感じがするかもしれませんが、しかしこれに近い状況は少なくはないと思います。

若者が特に問題となるのは、ストレス軽減レパートリーの少なさだと思います。昔はそんなことよくあったよと思うかもしれませんが、今は相談したり励まし合ったり愚痴や悪口を言ったりする機会が、非常に乏しいのではないでしょうか。新入社員が入っても現場ではせいぜい1人か2人、相談や愚痴も言えません。若者は一人で悩み、一人で抱え、一人で職場に来られなくなるのかもしれません。

そしてよい子が多いと、今いるところがすべてになってしまいがちですし、ヤバイ場合は逃げてもよいという危機能力も育っていないかもしれません。

4 メンタルクリニックを利用する

≪休みたいけど休めないので、診断書を書いて下さいと言うGさん≫

新卒で病院に入職した看護師のGさん。全体研修が終わり病棟配属となり、指導役の看護師に付いて仕事を覚える。3カ月ほどして一緒に入った看護師は患者さんの担当になったが、自分は「もう少しあとで」と主任から言われた。

(仕事ができないと評価されているのかな……そうかな……そうだよね……他の人より時間かかるし……。質問は? と言われてもちゃんと答えられなかったし……)、気持ちが落ち込み、夜一人になると涙が出てきた。

よく眠れなくなり、朝出勤するのがつらくなってきた。小さなミスもするようになり、(仕事ができない新人と思われているのではないか)(そういうレッテルを貼られているのではないか)と思うと、ますますつらくなってきた。担当の患者さんはいなくてもシフトには入れられているので、簡単に休みたいとも言えない。

(休みたい、でも休みたいとは言えない、シフトに穴をあけたら他の人に迷惑をかけてしまう。でもつらい……)

状態は一向に改善せず、思い切ってメンタルクリニックを受診し、休めるように診断書を書いてほしいと希望した。