五.シバムギ
「これで、冠部被度を測定すべき草の種類がそろった」
生徒たちがシバムギのにおいを確認し終わると早川が言った。
「今回測定する試験草地は、草地更新(耕して牧草の種を撒くこと)してから三年たつ。草地としては一番勢いがあるときだ。この草地の評価が今回の植生調査の最大の目的となる」
「さて、説明ばかりしてもつまらんな。とにかく調査をしてみよう。わからないことがあったら聞いてくれ」
生徒たちはそれぞれ班ごとに割り当てられた試験草地に移動して、植生調査を開始した。
山川、佐藤、高橋もてきぱきと調査を開始した。担当の試験草地は、草地更新してから三年目。土の表面にリター(枯草)はまだそんなに堆積していない。この草地にコドラードを三つ置くと、まず草丈の測定から取りかかった。
「まずチモシーからいくぞ」と佐藤。
「こっちもいいぞ」と高橋。
山川は記録表を挟んだバインダーを左手に持ち、いつでもデータを記録できる体勢で、
「記録も準備オーケーだ」と答える。
佐藤と高橋は、チモシーの株元に、折り尺の○㎝をすっと置き、チモシーの葉の先端まで折り尺に沿わせた。
「チモシー一〇・五㎝」
「チモシー一二・三㎝」
佐藤と高橋は手際よく草丈を測定していく。それを山川は素早く、かつ、ていねいに記録表にデータを書き留めていく。
こんな調子で、チモシー、白クローバー、エゾノギシギシ、セイヨウタンポポと草丈のデータがそろっていく。
「シバムギはないかな」草地の草をそっとなでながら、高橋はつぶやいた。
「じゃあ、シバムギはなしってことにしよう」山川はデータを確認しながら答えた。
さて問題は冠部被度である。
「まず、冠部被度の小さいのからいこう」
「セイヨウタンポポ三%、エゾノギシギシ五%ってとこでどうだい」と佐藤。
「そうだな、そんなところかな」と高橋と山川も同意する。
「白クローバーは一五%ってところかな」
山川がそう言うと、合いの手を入れるように高橋も言う。
「裸地は一〇%ってとこだな」
こんな具合に、冠部被度を三人で測定していったのだが、佐藤はハタと不安になった。
「残りはチモシーで本当にいいのかい?」
高橋は、イネ科草を一本取ると手でもんでにおいを確認した。シバムギ特有のにおいがする。
「いや待ってくれ、シバムギが混ざっている」
「しかし、どうやって見た目で区別するんだ?」と佐藤が首をひねると山川も、
「におい以外に何か特徴はないのか?」と首をひねった。
山川は高橋からシバムギを受け取ると、じっと見つめた。
「茎の下が赤いな。それに葉っぱが少しねじれている」
「これがシバムギの特徴かい?」佐藤もシバムギらしき草をのぞき込む。
困っている様子を見て、早川が声をかけてきた。
「おぅ、シバムギの見分け方をちゃんと言っていなかったなぁ」
「でも正解だ。葉っぱが少しねじれていて、茎の下が赤いのが特徴だ。シバムギは地下茎で広がるから、チモシーの株と株の間に生えることが多い。ここではまずチモシーの冠部被度を判定しよう」
早川にチモシーとシバムギを見分けるコツを教えてもらって、再び冠部被度の測定に取りかかる。