五.シバムギ
少し考えて、山川が口を開いた。
「早川先生、草地更新しても、たった三年でシバムギがこんなに生えてくるのは、何か大きな問題が隠れているような気がします」
「草地更新は、たくさんの手間がかかるはずです。その手間が、三年で効果が薄くなり、五年で無駄になる」
「確か授業でやったと思いますけど、ヨーロッパの草地は何百年も続いている永年草地が多いですよね。日本ではそれができないというのは、不思議というか、何か大事なことを俺らは分かっていない、そんな気がします」
山川は、自分でも、どうしてそんなことを言ってしまったのかと、少しとまどってしまった。そんな山川の様子を見ていた早川は、ゆっくりと語りかけた。
「山川、どうだい、自分でその疑問を解いてみないか。疑問を持つことはいいことだよ。そして考える。それが科学の出発点だ」
早川にそう言われた山川は、それまで自分のこととして実感の持てなかった(学理実践)の意味を、どうやら自分のこととして受け取らなければならない羽目に陥っていることをぼんやりと感じていた。
(研究者さえまだ原因がよく分かっていない問題を、自分が解くことはできるんだろうか)
(まだ十七歳の自分には、荷が重すぎるな……)
そんなことをぼんやりと考えていた山川に、佐藤が声をかけた。
「さぁ調査を続けるべ。まだ二カ所残っている」
佐藤にそう言われて、ハッと我に返った山川は、再び植生調査の記録を始めた。
その日の夕方、考え事をしながらゆっくりと歩いて、帰宅しようと玄関から校門に向かっていた山川に、内燃が後ろから走ってきて声をかけた。
「よぉ。何か悩みでもあるんかい」
「あ、内燃先輩。すいません、少し考え事をしていました」
「どんな悩みだい?」
「今日、試験草地の調査実習があったんですけどね」
「おお、お前らも本格的に調査実習が始まったか」
「ええ、そこで分かったんですけど、学校の試験草地でも三年でシバムギが全体の一/四にもなっているんですよ。確かに農業事務所の言う通り、草地更新を五年に一回はしなければならないというのは、分かったような気がするんですが……」
「気がするけど、何だい?」
そう内燃に問われて、山川は今日気が付いて疑問に考えていることを内燃に打ち明けた。